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井上雄彦との日常会話で感じた登場人物たちと作者の関係性『SLAM DUNK(スラムダンク)』

こんにちは。株式会社コルクの佐渡島です。

今日は、漫画『SLAM DUNK(スラムダンク)』について話そうと思います。

『SLAM DUNK』は漫画史に残る名作中の名作ですが、「作品は知っているけれど、読んだことがない」という10代や20代の人と出会うことがあります。

『SLAM DUNK』を読んでいないなんて、とてももったいないことですが、同時に「これから一気読みできる最高の幸せが待っている」とも思います。

『SLAM DUNK』は僕が小学校5・6年の頃に週刊少年ジャンプで連載をしていて、当時はものすごく盛り上がっていました。後にも先にも、僕があんなに熱狂して毎週漫画を楽しみにしていたのはこの作品だけです。

当時、日本中の小・中・高校生が同じように思っていたはずです。もちろんジャンプ自体が大人気で、発売日が月曜日にも関わらず「なんとかして土曜日に手に入れられないかな」と考えるくらい少年の心を鷲掴みにしていました。僕も『SLAM DUNK』が盛り上がっているときは、なんとかして手に入れられる店がないか探し回っていました。

「バスケ漫画はヒットしない」を覆した作品

『SLAM DUNK』は、みなさんご存知の通りバスケを題材にした漫画です。現在のバスケ漫画といえば、スポーツ漫画の中でも王道の種目ですが、『SLAM DUNK』の連載以前は「バスケ漫画は絶対にヒットしない」と言われていました。

当時バスケの人気は、NBA(National Basketball Association、ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)マイケル・ジョーダンの人気と共に上がってきていました。しかし日本ではまだまだマイナーなスポーツ。当時は衛星放送も今ほど普及しておらず、日本でアメリカの試合を見るということ自体が一般的ではなく、それが要因だったのかもしれません。もちろん日本でバスケのプロリーグなどもなくバスケの試合を見たことがある人も非常に少ないし、部活の中でもちょっとマイナーなものでした。

しかし、作者の井上雄彦さんがバスケが大好きだったため「バスケの魅力を漫画で描きたい」という思いでこの作品が生まれました。

実際に井上さんから聞いたことがありますが、業界の噂話で当時「バスケ漫画はあたらないから、学園ものとして連載できるように」と言われて『SLAM DUNK』は始まりました。

「学園もの×バスケ」というかたちで始まりましたが、バスケの表現がとても魅力的だったため、王道スポーツ漫画として支持されました。そして今ではバスケ漫画の金字塔となったわけです。

『SLAM DUNK』を読むととにかく僕らの世代は「あきらめたらそこで試合終了です」という安西先生の言葉を人生の中で何度も言います。このように、実際漫画の中では名言だったりカッコイイというわけではないけれど、忘れることができない名シーンがたくさんあるんです。

この物語のあらすじはすごくシンプル。バスケをやったことがない、ちょっと不良の桜木花道(さくらぎ・はなみち)が同級生の春子(はるこ)さんの気を引こうとバスケ部に入ります。湘北(しょうほく)高校バスケ部に桜木が入部することによって、他のチームメイトの魅力もどんどん引き出され、結果的にチームが強くなっていく。そして全国大会へ進んでいく…。という「桜木を中心にしてどんどんチームビルディングがされていく」という話です。

あらすじだけを聞くとスムーズな流れなのですが、読みごたえはすごくある話です。

スポーツ漫画の歴史を変えた『SLAM DUNK』

「歴史を変えた作品」は時間がたつと、なぜそれが歴史を変えたのか意外とわからなくなってしまいます。では、『SLAM DUNK』はどのように歴史を変えたのでしょうか。

今の若い人たちはたくさんのスポーツ漫画を読んでいると思います。『あひるの空』、『ダイヤのA』、『おおきく振りかぶって』、『GIANT KILLING』、『アオアシ』などなど…。たくさんのスポーツ漫画がありますが、これらは全て現実のスポーツに近いリアリティの高い作品です。このリアリティの高いスポーツ漫画というジャンルを作ったのが井上雄彦さんなんです

『SLAM DUNK』以前の漫画では、漫画っぽい表現が多いです。例えば野球漫画では『アストロ球団』や『ドカベン』など。『ドカベン』では岩鬼(いわき)がずっと葉っぱを咥えていたりしました。当時はその漫画らしい表現がおもしろかったし、今読みなおしても面白いと思います。

『ジャンプ』だと『キャプテン翼』もそうでした。僕はサッカーをやっていたので、シュートを打つときに「これがドライブシュートだー」と言ってみたり、他人の足に乗っかってジャンプしてみたりだとか、「不思議な必殺技が出るスポーツ漫画」がずーっと一般的だったんです。

「スポーツ漫画といえどもやっぱりバトルだ!」といった感じで必殺技がありました。『巨人の星』も、メラメラメラメラーって心の炎が燃える表現があったりだとか。そういったスポーツ漫画がすごく一般的だったんですね。

それに対して『SLAM DUNK』はどこまでもリアルなんです。

部活に対するリアルな葛藤が物語を面白くする

『SLAM DUNK』ではバスケのシーンがとてもリアルに描かれています。しかし、それだけだったらこの漫画はバスケ好きにしか広がらないですよね。でも実際はバスケ好きだけじゃなく、日本中に広がった。

僕の世代の男性では、この作品を読んでいないという人に出会う方が難しいくらいです。それぐらいみんな読んでいる。逆に読んでいなかったら、「え、それを読まずに青春時代を終えるなんてことなんてありえる?」というレベルでした。

なぜそこまでのヒットになったかというと、部活動のリアルな感覚を再現しているからなんです。

「部活を頑張りたいんだけど、皆とうまくチームビルディングできなくて頑張れない」

桜木の先輩である赤木と木暮の心境ですよね。桜木が入部するまでずっと上手くいかなかったあの感じ。部活をしている人の「チームビルディングに対するあこがれと悔しさ」がしっかり描写されていることによって、むちゃくちゃ漫画のリアリティが高くなっているんですよね。そんな部活に対する「あこがれと悔しさ」を描くことで面白さを作ったのがこの物語の画期的なところです。それ以降の漫画はそのリアリティを再現できないかを挑戦していったんですよね。

井上雄彦の中に見た、『SLAM DUNK』のキャラクターたち

僕にとって本当に井上雄彦さんは神みたいな存在というか、『SLAM DUNK』は本当に中高のときに何回読みなおしたか、まったく数えきれないくらいは読みなおしています。独立してコルクという会社をやる前、講談社のモーニング編集部にいたんですが、講談社を受けた理由の1つに「もしかしたら『モーニング』で、井上雄彦さんの描く『バガボンド』の担当になれるかもしれない(僕は『バガボンド』も大好きです)」と思ったことが挙げられます。

でもそれは宝くじに当たるような確率だから、「可能性は無いと思うけど、その可能性にかけて講談社に入社してみたいな」という、「アイドルと結婚したい」と同じような感覚で入社しました。そして結果的に本当に担当になっちゃったんですよね。

東大ゴールとか、経営者では上場ゴールとか、「そこを目標にしていたらダメ」みたいな風潮はありますが、僕は井上雄彦さんの担当になったとき、「自分の夢が叶った」気持ちになっちゃうくらい嬉しかったです。

実際に担当をさせてもらうと、井上さんは一流の作品を作ろうという姿勢がとてつもなく、それは宮本武蔵のようであり、赤木のようでもあり、桜木花道のようでもありました。僕自身もその姿勢に感化されて、担当編集になる夢を叶えたけれど、新たに「井上さんに負けない編集者になりたい」と決意し、切磋琢磨することができました。あの方に出会わなかったら、今の僕はまったく存在していないとも思ったりします。

井上さんと日常的にお会いして話をしている中でおもしろかったことは、桜木が1番井上さんに似ているんですけれども、流川もそうだし、赤木も、木暮も、安西先生も、三井も、リョータも…『SLAM DUNK』に出てくるキャラクター全部が彼の一部だと感じるところなんですよね。

「褒めてくれー」って言いながらすごく褒められると「嬉しい」っていう福ちゃんというキャラクターがいるじゃないですか。漫画を読んでいると、かなり変わったキャラだなって思っていましたが、それも井上さんの中に、ほんの1%だけはいるのを感じます。それをすっごく誇張して1人のキャラクターができている。『SLAM DUNK』という作品すべてが、井上さんの性格みたいな感じなんですよね。

『SLAM DUNK』を何度も浴びるように読んで、そして井上雄彦さんと接する中で、この作品を体験できたのは、僕にとって信じられないような幸せでした。この経験は、もう本当に素晴らしいことだったなと感じます。

最後に

『SLAM DUNK』は、部活をやったことがある人が読むと、むちゃくちゃ共感するところだらけです。みなさん自分の同世代のいろんなスポーツ漫画を読んでいると思いますが、ほぼすべてのスポーツ漫画がこの作品の影響下にあります。

多くの漫画家が手塚治虫さんの影響下にあるのと同じように、多くのスポーツ漫画が『SLAM DUNK』の影響下にあるんです。今日のスポーツ漫画は様々なテイストでどれもとても魅力的ですが、それでも僕はやっぱりこの物語が大好きと思っちゃうんですよね。

この作品を読んでいない人は、今からでも一気読みができる幸せがあるし、もう読んだことがある人はこれをきっかけにもう一度読んでみてもらえればなと思います。

今日は最後まで聞いていただいきありがとうございました。ではでは。

こちらの記事は「編集者 佐渡島チャンネル【ドラゴン桜】」で佐渡島 庸平氏が紹介した漫画の文字起こし記事です!(編集部)

※文字起こし:ブラインドライターズ

EDITION by タカハシ東京マンガレビュアーズ編集部)



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