まるで昼ドラなオメガバース版「華麗なる一族」が描く、人間の愛・憎・業『オメガ・メガエラ』
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まるで昼ドラなオメガバース版「華麗なる一族」が描く、人間の愛・憎・業『オメガ・メガエラ』

【レビュアー/bookish

漫画の楽しみの一つは、現実社会では経験できないことや物語を楽しめること。

丸木戸マキ先生の『オメガ・メガエラ』(講談社)は明治・大正のような雰囲気の時代を舞台にした財閥一族の後継者争いを描き、人間の傲慢さと欲望そしてすれ違いを浮き彫りにします。

ボーイズラブ(BL)で人気の「オメガバース」の設定を組み合わさることで、人間関係のギスギス度合いが一段と強まっています。

昼ドラ的設定×オメガバース

物語の舞台は明治・大正とおぼしき日本。古いイエ的な考え方と海外から入ってきた近代的な科学技術が組み合わさった世界です。そこで後継者になやむ財閥、英(はなぶさ)一族の当主、英善治郎が漆間犀門(うるま・さいもん)に、かつて外の人間に産ませた子供を捜すように命じるところから始まります。

当主には息子と孫娘がおり、後継者と目されているものの、この当主は女性が後継者になることを望んでいない。そして犀門が見つけた男の子、間宮は英家の後継者争いに巻き込まれていきます。

このように説明を書くと、典型的な昼ドラのように見えますが、ここに「オメガバース」という設定が加わることで、物語をより複雑かつドラマティックなものにしています。

本作の世界では誰もが男女の性以外に「α(アルファ)」「β(ベータ)」「Ω(オメガ)」という性を持っているとされます。社会の支配層を占めるα、平均的な能力を持ち人類の大多数を占めるβ。そして社会的地位が低く、優秀なαを生む存在として価値を認められるΩ。つまり男性でもΩであれば妊娠・出産が可能な世界です。αを生めればその家の中での地位は安泰となるものの、α以外を産んだり子供を産めなければ身の置き所がなく、虐げられることになります。

前述の英一族の当主は当然α。後継者にも男性のαを求めます。一方で子どもの探索を頼まれた犀門は男性のΩですが、子どもを産めなかったことで一族の中の居場所がない。英一族の次期当主とされる、英征十郎の最初の「妻」でありながら、「漆間犀門」と正式に籍が入っていないことからも明らかで、ほかの征十郎の妻からも見下されています。

その犀門が見つけた間宮は男性ながら、Ω。当主からは「Ωならいらない」と言われていたものの、ふとした気の迷いから間宮をαと偽って連れていきます。

物語の中心の1人となる間宮は一族の外で生まれた子どもであると同時にΩであるという秘密を抱えて暮らすことになる。犀門が投じた間宮という一石が、物語に緊張感を与えます。

「自分が信じる人はこの人だけ」拠り所がひとつという危うさ

当主を含め、ずっと一族の意向に従っていた犀門がなぜここで反抗したのかは明確には描かれていません。

しかし繰り返し読んでいると、子どもがいないゆえにほかの妻に見下される、才能があってもΩであるがゆえに望んだ仕事につけないなど、ままならない自分の境遇に鬱憤がたまり、この状況を覆したい/かき回したいという思いがあったのではないかとうがった見方をしたくなります。

その犀門が依存するのはΩが持つとされる「運命の相手」と信じ込んでいる英征十郎への執着だけ。

一見美しい愛情物語と見えますが、自分の拠り所をひとつとすることへの危うさも漂ってきます。

権力者は幸せなのか?

苦しいのは犀門のような社会的地位の低いΩだけなのか。丸木戸先生にかかると、「社会の支配者層であるαに生まれさえすれば、この世界で幸せである」とは描きません。

少数で社会を動かすことを求められるαは男女ともにあらゆる面で優秀であることが求められる。その一方で、優秀ではないものは異分子扱いされ、切り捨てられていきます。

本作の英一族でも男性のαでありながら、ほかのαに比べて劣っていると当主に決めつけられた伊織は当主の善治郎に切り捨てられ、きちんとした扱いをしてもらえず、意に反して分家に養子に出されます。その当主のいらだちは伊織を生んだ母親にもぶつけられます。彼以外にもαであるがゆえに恋もままならないキャラクターが登場します。

読者が『オメガ・メガエラ』に登場するキャラクターの物語に苦しさを感じてしまうのは、現実社会でも生まれたときに与えられた立場や属性に人生が支配され、自分の望む道を歩めないということがあると薄々感じているからではないでしょうか。

おかれた立場はある日、覆る

一見自分の意志で人生を歩んでいるようにみえても、それは立場や属性が求めるものであって、本心から望んでいるのかわからないという怖さもあります。

実際、『オメガ・メガエラ』では物語が進んでそれぞれのキャラクターに与えられた立場や属性が覆ると、「今までやってきたことは何だったのか」とアイデンティティが揺らぐことになります。

もちろん彼らに責任はなく、『オメガ・メガエラ』の舞台となる社会が求めた結果なのですが。

目が離せない重厚な物語の行末

作者がこの「オメガバース」の設定にどんな考えを仮託したかははっきりしません。ただ既刊4巻の物語からは、立場や属性に関わらず自分のやりたいことを選べる社会環境のありがたさを読みとることも可能です。

最新話ではそれまで英家を支えていた基盤が一気に崩れ、残された人たちの寄る辺のなさが描かれます。苦しい展開になると思いつつも目が離せない物語の先をぜひ確かめてほしいです。


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