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数学オリンピック日本代表を目指す漫画に登場する”足を引っ張るひとたち”が、生きづらい社会を表現している。『数学ゴールデン』

数学オリンピックってなに?

算数はそこそこできましたが、数学になって理解が追い付かなくなり、気が付いたら苦手科目の筆頭クラスになっていました。

それでも数学をテーマにした漫画があれば手に取ってしまいます。僕にとっての「数学ができるひと」は常に憧れであり、それはコンプレックスの裏返しなのかもしれません。

数学を媒介に男女関係が深まっていく『数学ガール』

数学の天才少女が怪事件に挑む『浜村渚の計算ノート』

天才数学少年の成長物語『はじめアルゴリズム』

そして、暗記数学の限界をコミカルに描く『数字であそぼ。』

どれも読めば数学が好きなる、数学をまた勉強したくなる。実際にそういう気持ちにはなるものの、なかなかあらためて数学を学ぶに至らない自分が残念です。

それでも、子どもたちが算数を勉強する年齢になったので、じっくり、ゆっくり一緒に考えています(現在:長男小学校3年生)。

そんな数学をテーマにした漫画から一線を画す『数学ゴールデン』が描くのは、数学オリンピック日本代表を目指すストーリーです。

本書の内容に入る前に、そもそも数学オリンピックとはどのようなものでしょうか。うっすらニュースで、今年の数学オリンピックは日本代表が何位になったという情報を見たことがあるような、ないような、くらい僕には基礎知識がありません。

そこで公益財団法人数学オリンピック財団のウェブサイトをのぞいてみました。

数学オリンピックと称される国際大会は複数あります。中でも、本家本元は国際数学オリンピック(IMO:International Mathematical Olympiad)だそうです。

日本が他にも参加しているのは、アジア太平洋数学オリンピックヨーロッパ女子数学オリンピックのようです。

IMOの目的は規約に掲げられています。

・世界各国の数学に秀でた才能を持つ若者を見出し、励まし、才能を伸ばすこと
・世界各国の数学者たちの友好的な国際交流を育むこと
・世界中の学校のシラバスや実践に関する情報交換の機会を提供すること ・数学全般を発展促進すること

参加資格はざっくり高校生以下。国内大会で選ばれたその国の国民・住民から、たった6名が選出されるということです。なんと2023年には日本の千葉県千葉市で開催される予定となっています。

スタートラインにさえ立てない、足を引っ張るひとたち

主人公の小野田春一は、高校受験で第1志望校に入れませんでした。しかし、数学オリンピック日本代表への情熱はそのまま。進学した高校の新入生代表挨拶で、自らの目標を高らかに宣言します。

会場はざわつき、生徒からは「数学の・・・オリンピック?」「な・・・何それ・・・」「あ・・・頭が痛くなってくる言葉の響き・・・」という言葉が発せられます。

その後はもちろん、春一が廊下を歩けば、少し離れた場所からヒソヒソと噂話。「数学」と「オリンピック」という言葉の掛け算が導き出すのは、数学オリンピックのスタートラインにさえ立てない人間たちのたわ言ばかりです。

明確な目標を持つ人間にとって、もっともわずらわしいのは足を引っ張る人間です。それもスタートラインにすら立つことのない場所から、誹謗中傷を投げつけ、頼まれてもないのに絡んでくるひとたちです。

たまたま同じ年に生まれ、同じ学校に通う他人。同級生という関係性を使って、何かにつけて「数学オリンピックを目指している」ことをdisります。

たまたま知った誰かの壮大な目標を聞いて、そいつの受験偏差値が自分たちより劣っている。その理由だけで、目指す場所がそのひとにとって分不相応であるかのようにふるまってきます。

教師と生徒という関係において起こりえるさまざまな葛藤やトラブルでも、数学オリンピックを目指していることを引き合いに、本来伝えるべきことをゆがめてあざ笑うかのように言葉を投げつけてくるのです。

これらはすべて人格の否定であり、個人の尊厳を著しく傷つける行為です。たちの悪いことに、その行為に悪気がないことすらあります。糾弾されればユーモアであったと言われ。本気で怒鳴れば、あなたな冗談が通じないと言われる。

そうやってひとの人生を踏みにじる行為を行うのは、いつだってスタートラインに立たないひとたちです。

数学を愛するひとたちに囲まれて成長する

この『数学ゴールデン』は、本気で数学オリンピックを目指す高校生と、そんな高校生を愛する大人が織りなすロマンとそろばんの物語です。

私たちの多くは、数学オリンピックを目指す高校生の日常を知りません。どのようなスケジュールで代表が選考されるのかわかりません。代表選出から逆算された計画に沿った人生をおくる高校生を想像できません。

また、彼ら彼女らの才能を見いだし、その情熱の炎を絶やさないよう活動している大人と出会うこともなかなかありません。

数学オリンピックという数学界最高峰の大会を目指す春一は不器用ながらも不断の努力を惜しみません。わずらわしい人間関係を避けるため、あえて自分を孤独に追い込む姿は、生きづらいこの社会を泳ぐ子どもの姿を端的に示していると言わざるを得ません。

しかしながら、偶然、同じ目標を持ったクラスメート七瀬マミの存在や、数学オリンピック出場経験のある教師との出会い。数学オリンピックを目指すことを通じて初めて出会った、同じ目標を持って切磋琢磨するライバルたちとのかかわり。

数学を愛するがゆえに孤立した主人公が、数学を愛するひとたちに囲まれて成長する姿は「子どもたちの健やかな育成を支える環境や社会が、どれだけ子どもたちにとって重要なのか」を再認識させてもらえる1冊です。

2023年、千葉市開催予定の数学オリンピックがいまからとても楽しみです。

WRITTEN by 工藤 啓
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