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大喜利で人を救う。日本に充満する「不謹慎」を克服する方法『キッド アイ ラック!』

「笑いで人を救えるか?」

『キッド アイ ラック!』は単純そうで難しいこのテーマを愚直に問い続けます。大喜利を題材とした数少ない漫画ですが、ギャグ漫画ではありません。面白いことはもちろんですが、ただひたすらに泣けます。笑えて、泣けて、感動する。笑いの本質がふんだんに詰まった、愛があふれる漫画です。

本作は、『月刊ビッグガンガン』にて連載中の音楽漫画『SHIORI EXPERIENCE~ジミなわたしとヘンなおじさん~』と同じ、長田悠幸先生と、町田一八先生のタッグで制作されています。音楽とお笑い、どちらも表現の難しい作品ですが、テーマを伝えようとする熱量をひしひしと感じます。

漫画表現の難しさを超える、お笑い愛

あらすじを簡単に説明します。主人公の矢追金次郎は笑われることが大嫌いな不良です。ケンカに明け暮れる日々で恨みを買い、それがきっかけで幼なじみの江崎久里子が事件に巻き込まれます。江崎は笑えなくなり、事件の恐怖で引きこもりの生活を送ることを余儀なくされます。江崎を笑顔にする、それだけの為に矢追は大喜利を始めます。

大喜利を漫画にする上で、実際にそれを構成する要素から捨てて表現しなければならないものがあります。それは、「間」と「声のトーン」です。それらがどのように表現されているかは読者の想像力に任せるしかありません。なので、大喜利自体が漫画のセリフの文面だけで面白いものでないと成立しません

それでも、しっかり面白い!!

長田悠幸先生自身が考える大喜利で、笑いに対して真っ向勝負を仕掛けてきます。

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『キッド アイ ラック!』(長田悠幸/町田一八/スクウェア・エニックス)より引用

何よりも芸人さんへのリスペクトを忘れず、お笑いを愛し、作品自体を楽しく作っていることが伝わってきます。自分が好きな物を作っているからこそ、お笑いという表現の難しい題材を扱うことができたのでしょう。

不謹慎という名の閉塞感に立ち向かう

見えないけれど、確かに存在する不謹慎という空気。

不幸が降りかかれば、笑うことも許されない。なぜでしょうか。

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『キッド アイ ラック!』(長田悠幸/町田一八/スクウェア・エニックス)2巻より引用

思うに、不謹慎という空気を生み出すのは他人ではないでしょうか。不謹慎と言い出す人たちは被害者側の意識を考えてはいるのですが、傷ついた本人ではない。ということは当事者以外は概要だけで物事を判断することになります。しかしそれだけでは、当事者たちの感じる問題や心の機微を判断するのは至難の業です。実際に関わっていない他者の想像や、憶測だけで、大きく膨らんだ不謹慎という空気は、本当に当人たちの希望や願いに寄り添っているのでしょうか?

実際の被害者が何を望み、何を望まないのか、それは本人にしか分かりません。

当事者である矢追は、本気で人を救う事を考えた末に、大喜利を選びました。

矢追は自分の頭で、何が江崎の望みなのかを考え続けます。毎日部屋に通い、無視されながらも話し続けた。一人で大喜利をして、みんなの前で笑われ続けた。笑われることが大嫌いだったはずの矢追の覚悟と熱意に、読者の胸も熱くなります。

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『キッド アイ ラック!』(長田悠幸/町田一八/スクウェア・エニックス)1巻より引用

「笑いで人を救えるか?」というテーマがブレないのは、矢追の目標が大爆笑をとることでも、お笑い芸人になることでもないからです。

傷ついた幼なじみを救う。

その為だけに大喜利をする覚悟がブレないからこそです。

本人と向き合い考え続けることで生まれる選択と、それを理解し応援できる心が他者にあれば、当人を無視した不謹慎という空気を払拭し、傷ついた人の心を救えるのではないでしょうか。

怒りと悲しみを昇華できる「笑い」は人を救う!!

人を笑わすには、まず自分自身が笑うこと。喜怒哀楽の中の、怒と哀を昇華し、喜と楽にして伝えることで初めて笑わせることができる。笑いは、人と人の優しさで成立します。だからこそ、笑いは人を救うと断言できる。

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『キッド アイ ラック!』(長田悠幸/町田一八/スクウェア・エニックス)2巻より引用

もしも、辛いことがあったら、気が済むまで泣けば良い。それでも、最後には笑って欲しい。

この漫画を読んで、笑いという優しさのタスキを受け取った人が笑顔になれますように。そしていつか、他の傷ついたひとたちにも、同じように優しさを託せますように。

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WRITTEN by おがさん
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