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老後2千万円という無理ゲーに漫画で立ち向かう…! 『マンガ 恋する株式相場! 』

不幸の9割を回避させるお金

お金に対してどう距離をとるかはともかく、お金の問題は終生ついてまわる。よく言われるように、「お金があれば幸せになれるとは限らない」が、「お金があれば不幸の9割以上を回避できる」も事実である。人生においてどのような生活を送るにしても、一定の経済基盤、つまり資産を確保する方法を持つことが必須であろう。

本もYoutubeにも、そこかしこに良質なコンテンツがいっぱい

そして、資産運用、さらにその中心となる株式投資については、本屋に行けば山のように関連書籍が並んでいるし、それについて語るYouTuberもたくさんいる。私も投資業界の片隅にいるが、書籍もYouTubeのコンテンツも(玉石混交ながら)そんなに悪くなく、良質なものも最近多いな~と率直に思う。

結局、大切な知識はコツコツ積み上げるしかない

ただ、ここが重要なのだが、資産運用、株式投資の知識は、この我々が生活する資本主義社会の根幹と直結しているので、それなりに緻密に設計されている。よって、理解を深めるには最終的には一つ一つコツコツ学んでいって知識を積み上げていくしかないし、それが一番近道といえる。この点、「世界一やさしい資産運用・・」的な本とか、10分のYoutube動画はどうしても情報力が弱い。ノリや簡単すぎる表現で大切な事項をすっ飛ばしてしまうのだ。

この『マンガ 恋する株式相場!』は不倫、寝取りありのドロドロ漫画

そこで、今回は本作を激推ししたい!この『マンガ 恋する株式相場!』は、ストーリー自体は不倫で家を追い出されたサラリーマンとその友人の個人投資家との再会から始まるゆるい話だ。本編ず~~っと男と女が絡むドロドロの話が続く。さえないサラリーマンが現状を打開するために株式投資を学んでいくのが、本作のプロットだ。

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(こういうノリで、いろいろこんな話が続く)※『マンガ 恋する株式相場!』(ホイチョイ・プロダクションズ/ダイヤモンド社)89pより引用

学習効果は「段差が小さく等しい階段」

しかしこの作品、学習効果面でいうと、例えるなら「段差が小さく等しい階段」。簡単すぎる言葉やノリで一つ飛ばししたりしないが、一つ一つ階段を登れば確実に資産運用とそれを支える経済社会の理解を積み上げることができる。そしてその知識が包括的で漏れがないように感じる。

ただ、各ページ、易しい言葉と実例で語られているけど、さらっと読むことはできない。情報量も多いのでじっくり丹念に読み込んで咀嚼する必要がある。さすが投資雑誌ZAiで連載されていただけあり、その辺のコンテンツとしての足腰はめちゃめちゃ強い。

それでは本書のすごいところを具体的にいくつか紹介しよう。

ここがすごい1:株式会社の基本的な仕組み、そして株価の決まり方の分かりやすさ

株式会社、またそれにまつわる株価、配当、キャピタルゲイン、PER等各指標等、資産運用の基本となる諸項目について、実例を使った噛み砕かれた説明が続く。そしてすごいのは、作中さらっと本質をえぐる一言をはさんでくる。例えば「株主になるってことは経営者側に立つってことだ」「今の経営者は、社員とではなく、株主と利害が一致しているんだ」などの発言がそれだ。このページにはサラリーマンが金持ちになることはない理由の一辺が凝縮されている。世にいる資産家たちがコスト項目(つまり減らされる対象)たる"年収"を比べあうサラリーマンをシニカルに眺めている理由はまさにこういうところだ。

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(そもそも"株式会社"とはという話 )※『マンガ 恋する株式相場!』(ホイチョイ・プロダクションズ/ダイヤモンド社)21pより引用

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(「経営者が株主と利害が一致」ということは「経営者が社員の給与をあげる理由が薄い」ということ。)※『マンガ 恋する株式相場!』(ホイチョイ・プロダクションズ/ダイヤモンド社)25pより引用

ここがすごい2:NISA等、株式投資をする人に対する優遇制度の分かりやすさ

一方、NISA、iDeCo等、国は株式投資をする人をかなり優遇する制度を整備している。個人的にはiDeCoなどは制度設計的に、国が金をバラまいているに近いのでは、と思ったりするがその制度についても本作中、詳しくわかりやすい説明がある。まだ変わり続けている制度であるが、老後2000万円問題についても、こういった制度設計知った上で、あの問題になりまくったレポートを読むと、「年金だけじゃ100%生活無理なので、四の五の言わずにNISAとiDeCoやれや」というのが国からのメインメッセージだったんだな…。と腑落ちできる。

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(NISAの仕組みの説明。20%オフセールはどう考えてもお得…。)※『マンガ 恋する株式相場!』(ホイチョイ・プロダクションズ/ダイヤモンド社)31pより引用

ここがすごい3:確率計算、期待値について、実例、データ、理論を交えた説明

確率計算期待値について、実例、データ、社会科学の理論を交えて詳しい実践的な説明がある。確率計算と期待値の考え方は、投資家・村上世彰さんもその著書の中で再三指摘しているが、本当に人生を大きく左右する。逆に、この計算ができないと日常生活は「なんとなく不安」というぼんやりした不安感にずっと覆われる。将来が不安、学費が不安、健康が不安、老後が不安、などなど。そして、数多の保険会社や金融業界の人たちはその「ぼんやりした不安感」をピンポイントに狙ってぼったくる。それはしょうがない。向こうもビジネスだ。しかし、確率計算と期待値に基づき冷静に計算さえできればリストラしても安心ないい生命保険や学資保険が自ずと明らかになるはずだ。よって、ここを理解するだけでも(株式投資だけなく)家計全体の設計を助けうる重要な項目だろう。

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(確率と期待値に基づいて行動するのって意外と難しかったりする好例がたくさん)※『マンガ 恋する株式相場!』(ホイチョイ・プロダクションズ/ダイヤモンド社)53p、54pより引用

ここがすごい4:企業の決算情報の読み方を細かく説明している

個人的に特に感動したのはこれだ。いわゆる上場している企業は3カ月ごとに決算(つまりビジネスの成績)と、その決算について詳しい説明資料を公表している。しかし、それは膨大な量になるし、どこを注目して読めばいいかなかなか教えてくれる本は少ない。それをピンポイントにここを読めに指定する点はすごい。

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(決算短信の読み方。漫画でここまで詳しく説明されているのを初めて見た)※『マンガ 恋する株式相場!』(ホイチョイ・プロダクションズ/ダイヤモンド社)87pより引用

ちなみにこれらの決算資料は株式投資だけでなく、業界についてのリサーチ、そして転職活動などにも有効で、例えば、求人に応募した会社が上場企業の場合、決算資料を読み込んでおくと、直近の成績や、競合状況、長期展望等、かなりの部分把握できる。零細企業から上場企業に転職した知人がいるが、彼はまさに決算資料を読み込んだ上で応募し、面接でも驚かれたそうだ。本作を読んだあと、「(興味がある企業名)+決算短信」、「(興味がある企業名)+決算説明会資料」、「(興味がある企業名)+有価証券報告書」とかで検索かけて見てみてほしい。企業によっては社長自身が説明している動画も公開されている。情報としての宝の山っぷりに仰天するはずだ。

ここがすごい5:アクティブ投資、パッシブ投資、投資業界の不都合な真実も開示

プロの投資業界には不都合な真実…。的なものがある。それをアクティブ投資 vs パッシブ投資論争といい、思いっきり単純にルーレットに例えると、特定の色や数字に大きく賭けるのがアクティブ投資、すべての色、数字に少しずつ全部賭けるのがパッシブ投資と言える。どっちが運用成績がいいかの議論はずっと続いているが、もしアクティブ投資が否定されたら、世の中のファンドマネージャーの大半は職を失うことになる。

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(この議論はぜひ一度自分で考えてみてほしい)※『マンガ 恋する株式相場!』(ホイチョイ・プロダクションズ/ダイヤモンド社)44pより引用

結局どっちがいいかについての答えは…まぁ…。それぞれいろんな人がいろんなことを言っていて私もよくわからないので触れない。ここ最近パッシブ派が勢力を伸ばしているが、もし、本書を読んであなたがパッシブ投資支持者になるなら、おそらく銀行、証券会社や郵便局の窓口で一度は売り込まれたことがあるだろう〇〇投信等の商品は9割以上、買った人を損させる〇ソのかたまりということになる。このあたりの事情も、本作中には詳しく説明されている。

おまけのすごいところ:金融商品の大量破壊兵器、全力二階建ての詳しい説明

SNSを覗いていると、先物、FX等で身を亡ぼす人をちょくちく見かけるが、それは基本的にお金を借りて大きく掛け金を張って勝負する仕組み、レバレッジが関係している。その説明もあるのだが、本書がすごいのはそのなかでもさらに大量破壊兵器たる全力二階建ての詳しい説明がある。これには笑った。この手法はまさに一攫千金、うまくいけば瞬時に超お金持ち。しかし、逆方向にいったら地獄の業火で灰になるまで資産が消滅する一品だ。今日もどこかで誰かが焼かれている。

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(掲示板とかで負けすぎてバグって「う〇こパクパク」とか書き込みしている人だいたいこういうレバレッジかけすぎに焼かれている)※『マンガ 恋する株式相場!』(ホイチョイ・プロダクションズ/ダイヤモンド社)118pより引用

読み込んだ後に、できれば投資実践+会計の基礎知識習得。すると世の中のク〇商品が目につく

ここまで5例+おまけを紹介したが、もう書ききれないくらいの情報量がある。

そして、この本を読み込んで興味を持ったら、できれば株式投資の実践を積んでほしい。そして都度、本書を読み返してほしい。すると1年も立たないうちに、生命保険、学資保険、個人型確定拠出年金など、市販に流通する商品がいかに〇ソか、一方、NISAやiDeCoといった国の制度がほぼお金バラマキに近いか…。知らない人間はこんなに遠慮なくぼったくられ、知っている人間はこんなに特権があるのかを知って愕然とするだろう。

そして、さらにできれば株式投資の実践と同時に、会計の基礎を身につけてほしい。ここで書いたこと、紹介したことや、制度や資料の全ての内容は会計の言葉で書かれている。というか、現代社会はビジネスの最重要部分は会計がないと理解できないし、会計用語を使いこなせなければ重要な意思決定には絶対に関われない。シビアな話、会計を知らずにビジネスの現場にいても、言葉を解さない犬同然の扱いをされて当然なのだ。とはいえ高度な会計知識は必要ない。”会計語”における"単語"にあたる仕訳(しわけ)をいくつか触ってみて、それが貸借対照表、損益計算書等の基礎的な財務諸表に繋がる仕組みを体得するだけでいいだろう。イメージとしては日商簿記3級くらいと思う。私自身、新卒やインターンのトレーニングを担当していたことがあったが、英語とか実務知識よりも、まず先に日商簿記3級を取らせていた。

さいごに:戦場に丸腰で向かわないために…

どのような資産運用をするか読者次第だし、お金持ちになるかもわからない。しかし、本書とつきあってその知見を深めると「ワシ、今まで、資本主義という戦場をほぼ丸腰で歩いていたんかいな…。」と自信喪失することは間違いない。

知らない、騒がない、ネゴらない、動かないサラリーマンはぼったくられ続ける

上に述べた通り、気楽で簡単なマンガではない。ただ、つい数日前厚生年金の保険料の増額が報じられたが、給料からの天引き分が増えるので、あれは実質増税だ(年金なので一部帰ってくるが…)。消費税が数%上げられそうになったらあんなにみんな騒ぐが、給料からの天引きがちょっとずつ増えても騒がないのは、日本の七不思議の一つといえる(今回の増額は高所得者対象)。

要は、知らない、騒がない、ネゴらない、動かない人々はぼったくられ続けるのだ。そして今後の情勢を鑑みて、どう考えてもサラリーマンが自然にお金持ちになることはない。金持ちまでいかなくともまともな資産形成すら厳しい。にも関わらず、老後までに2千万円現玉で用意しろや、という無理ゲーに立ち向かっているのが現代なのだ

そう、みんな武装する必要がある。そして、本作はそのスタートとして最適の作品だ。

本作は、今まで紹介してきた作品のなかで一番あなたの生活を直接変える可能性を秘めたものかもしれない。この東京マンガレビュアーズが、あなたの生活を少しでもポジティブな方向に変えられることを陰から祈っている。

おススメ!

 WRITTEN by 山田 義久
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