小説家・辻村深月と『四月は君の嘘』新川直司が贈る、ちょっと不思議なスーサイドミステリー『冷たい校舎の時は止まる』
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小説家・辻村深月と『四月は君の嘘』新川直司が贈る、ちょっと不思議なスーサイドミステリー『冷たい校舎の時は止まる』

【レビュアー/竹谷彰人

音楽でもサッカーでもない新川直司先生作品。

「一年の計は元旦にあり」と多くの方が唱えるだろう年始めの1月1日から、早いものでもう4ヶ月が経過しました。2021年も残すところおよそ66%と考えるに、ゲームの攻撃命中率だと「結構少ないな…?」と思ってしまうほどの数字で驚きます。

一方で、学校や会社など、日本では4月を「始まり」に位置付けるものも多いです。1月も4月も、それぞれが始まりと制定されたのは明治時代からですので、普段当前に享受している月のイベント性は歴史としては比較的浅いようです。

ちなみに、太陰暦から太陽暦に鞍替えしたのも明治からですが、その理由は太陰暦特有のうるう月のせいで年によっては一年が13ヶ月となり、月給が1ヶ月分増えて企業側が正直しんどかったからと、どこかで読みました(年あたり人件費がおおよそ10%弱増える)。その点太陽暦は4年に一度2月29日が申し訳程度に挿入されるだけですから、同じ月給でも節約できるという寸法です。

逸れました。

4月1日は多くの企業にとって新入社員の入社日となり、竹谷も十有余年前のこの日、社会の歯車になってしまうのがどうにも嫌で嫌で、半べそになりながら入社式の開かれるホテルへ向かった記憶があります。

また、4月1日はエイプリルフール、即ち”嘘をついていい日”でもあります。

「地球から水がなくなる」

小学生の頃、そう姉に言われ絶望したのが竹谷にとってのエイプリルフール初体験でしたが、昨今ではSNS等のインターネットで玉石混交の嘘が散りばめられる日となりました。

弊社ミリアッシュも何とかスマートに嘘をつこうとあくせくしたもののどうにも勝手がわからず、今年は「嘘ではなく夢を」というPR TIMES社のエイプリルドリームへ参加させていただきました。

最近毎回のように他のウェブサイトへ街道を敷いてますが、先日編集の皆さんとカラオケで親交を深めたのできっと朗らかに笑い許してくださるはずです。

かように四月はイベントで満タンですが、漫画においても直球にその言葉を用いた『四月は君の嘘』という作品があります。

ピアニストの少年有馬公生(ありま・こうせい)が少女と出会うことで音楽と再び向き合い、成長していくさまを描いています。才能を問い、追い求めんと深く潜っていく漫画は、いつだって竹谷のやわらかな胸を打ちます。泣きました。

同作者・新川直司先生の最新作『さよなら私のクラマー』も、まさにこの四月よりアニメが放送されています。こちらは女子サッカーをテーマにした群像劇で、サッカーを通じて夢を追う少女たちの闘いと勝負をかっこよく、そして熱く描いています。泣きました。

ちなみに『さよなら私のクラマー』の舞台は埼玉県蕨市と、高校受験の時にさいたま市立浦和高等学校埼玉県立蕨高等学校とで悩んでいた竹谷にとっては地元感の溢れる漫画で何だか誇らしい気持ちになっておりました。

自分にも郷土愛が少なからず備わっているのだなあと思いつつ、地元が漫画の舞台になるってすごく嬉しいことだとしみじみ感じ入った次第です。

しかし、今回レビューでオススメするのはそのどちらでもありません。

辻村深月先生の小説を原作とし、新川直司先生の連載デビュー作となった『冷たい校舎の時は止まる』です。

ミステリーですが、ひと味違うミステリー。辻村深月先生の凝縮された面白さが、新川直司先生の筆致により鮮烈な漫画となりました。

マーダーならぬスーサイドミステリー。

マーダーミステリーというゲームがあります。

アナログゲームの筆頭格である「人狼」のような正体隠匿系ゲームと、SCRAP社がしかける体験型謎解きエンターテインメントの「リアル脱出ゲーム」を混ぜたようなゲームです。秀逸なシナリオによる圧倒的な没入感で、まるでミステリー作品の登場人物になったかのような感覚で楽しむことができます。

マーダーミステリーはその名の通り殺人を扱った演目がほとんどで、各々の腹を探り合いながら「誰がいつどこでなぜどうやって殺したか」を解いていくのですが、その中のひとりは犯人で、自分が犯人だとバレないよう振る舞う必要があります。

踏み入った説明はレビューの趣旨から逸脱するので避けますが、竹谷は『王府百年』という演目でしたらゲームマスターをできますしセットも持っているので、やってみたい方がおりましたらお気軽にお声がけください。もちろん使い放題無料です。

さて、『冷たい校舎の時は止まる』も、ミステリーです。

ただ、解くべき謎が、殺人ではなく自殺という、ちょっと不思議な物語なのです。スーサイドミステリーとでも、形容すれば良いでしょうか。

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『冷たい校舎の時は止まる』(辻村深月/新川直司/講談社)1巻より引用

現実社会において、自殺がニュースとして取り上げられることは少なくないように思いますが、その際クローズアップされるのは「なぜ」してしまったのか、つまり理由がほとんどです。

『冷たい校舎の時は止まる』でも、理由は謎として描かれます。

しかし、この作品でもっと巨大に膨らんでいる謎は、自殺ではありえない「誰が」なのです。

先ほど「ちょっと不思議」と申しましたが、それはこの本来ありえない謎が可能とされている舞台設定によります。

雪の中、8人の少年少女が学校に集まりますが、なぜか時間が止まっていて、校舎にその8人以外誰もいないところから物語が始まります。

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『冷たい校舎の時は止まる』(辻村深月/新川直司/講談社)1巻より引用

この現実離れした状況を実現してしまった原因が、物語始点の2ヶ月前に自殺してしまった生徒にあると推測することはできましたが、8人全員がその生徒の名を思い出せません。

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『冷たい校舎の時は止まる』(辻村深月/新川直司/講談社)1巻より引用

そして、8人の中の誰かが自殺者であるという強い疑念が出てきますが、当然、全員その自覚がありません。

もしかしたら、自殺したのは自分かもしれない。だって。

8人は、自分を含め、自殺した生徒が誰なのかを解明するべく、広く冷たい校舎を奔走します。その中で、8人それぞれの忘れていたことや思い出したくないこと、誰かに向けた想いが解かれていきます。

『冷たい校舎の時は止まる』は、竹谷の大好きな小説家・辻村深月先生のデビュー作であり、辻村ミステリーの原点とも呼べる作品です。単なる謎や叙述トリックだけでなく、登場人物たちの想いが錯綜し、徐々に決着を迎えていく展開が並々でなく面白いのです。

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『冷たい校舎の時は止まる』(辻村深月/新川直司/講談社)1巻より引用

デビュー作である以上、『冷たい後者の時は止まる』は、原始の火とも言うべき熱量で書かれています。

同じく、この漫画は新川直司先生の連載デビュー作でもあり、したがってふたりの原始の火で作られた作品と言えます。

ミステリーがお好きな方はもちろんのこと、かつて小説で『冷たい校舎の時は止まる』を読んだ方、『さよなら私のクラマー』完結で新川直司先生の作品を食べたくてお腹の空いている方、たくさんの方にお読みいただきたい漫画です。

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お読みくださり誠にありがとうございました!

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実際、マーダーミステリーの亜種としてスーサイドミステリーの演目があったらものすごくやってみたいと思います。「殺した」でなく「自殺した」だと、動機や人間関係がガラっと変わりマーダーミステリーとは違ったシナリオを楽しめそうではありませんか!

▽株式会社ミリアッシュはイラスト制作会社です▽


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