賭博だからこそ徹底した実力主義のボートレースは、大河のように太いドラマを生む『モンキーターン』
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賭博だからこそ徹底した実力主義のボートレースは、大河のように太いドラマを生む『モンキーターン』

【レビュアー/竹谷彰人

竹谷が代表を務めるイラスト制作会社ミリアッシュは、東京都府中にオフィスを構えています。

都の西側に位置し、中央線でいうなら国分寺の真南にあります。電車通勤スーパー億劫マンな竹谷はおむすびのように転がり府中へ住みつき、はや3年が経過しました。

皆さんは、府中にどのようなイメージをお持ちでしょうか。

昭和のポップスがお好きな方は、松任谷(荒井)由実氏の歌『中央フリーウェイ』を思い起こすかもしれません。

中央フリーウェイ
右に見える競馬場 左はビール工場
この道は まるで滑走路
夜空に続く

この競馬場は東京競馬場を指し、昨今の覇権アニメ「ウマ娘 プリティーダービー」の第1話でスペシャルウィークが迷子になっている駅こそ東府中駅であり、つまりそこらへんが府中です。

ニュース的な側面からだと、少し前に漫画にもなった昭和屈指の大事件である三億円事件は、府中刑務所付近で起きました。

ほかには、スペースデブリの監視を目的とした宇宙作戦隊という少年ゴコロをくすぐる部隊の拠点が自衛隊府中基地にあったり、ついこのあいだ東京オリンピックのロードレースで話題になった大國魂神社があったり、カントー地方のフチュウタウンには、ゲームステージにうってつけな施設や場所がたくさんあります。

ちなみに、まさに選手たちが境内を駆け急カーブしようという折、おなかがすいた竹谷はコンビニへ向かっていました。そして、大國魂神社の参道をいつものように横切ろうとしたところ拝殿の方へ迂回させられ、その結果、拝殿手前を高速で曲がる選手たちを流し見ることができたのです。がんばって図解を用意したのでよろしければご覧ください。すごいスピードでした。

TMRモンキーターン1

さて、スピードといえば、忘れてはならない施設があります。

ボートレース。

そう、大田区にある平和島ボートレース場です。

大田区。『シン・ゴジラ』が上陸したことで有名な、大田区です。

府中市の財政について

府中市のウェブサイトにある「令和3年度予算のあらまし」を読みますと、府中の予算の合計は約2,500億円です。予算を端的に説明するなら、府中市を出入りするお金でしょうか。

そのうち、約830億円が競走事業、言い換えるとボートレースに割り当てられています。府中のお金の3分の1はボートレースからできています。勝舟投票券払戻金だけで約550億円ですから、そのよくわからない規模感をご理解いただけるのではないでしょうか。

どういう因果かは皆目存じませんが、多摩川ボートレース場は府中市にこそあれど、青梅市、小平市、日野市、東村山市、国分寺市によって競技が開催されます。

対し、平和島ボートレース場は、かつて都営だったものの業績がキャビテーションしてしまって振るわず、府中市が名乗り出て、以降競技を開催しているそうです。

つまり、ざっくり言えば府中市は予算の3分の1を大田区の平和島にてやりくりしている、という不思議な状況となります。

府中市が長年営み続けてきた、それこそ名称がまだ平和島競艇場だったこの場所で、今から25年前の1996年5月2日、ひとりの漫画家が観戦に出かけておられました。

河合克敏先生です。ここで、先生はレーサーの濱野谷憲吾(はまのや・けんご)選手に出会います。

今回オススメする漫画『モンキーターン』は、こうして生まれました。

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『モンキーターン』(河合克敏/小学館)7巻より引用

徹底した実力主義の世界に挑む少年を描く

2021年7月、「2021年 夏スポーツを100倍楽しむマンガ100選」という企画の末席を汚す栄に浴しました。

竹谷はかしこみかしこみ5つの漫画を挙げさせていただき、その中のひとつが『モンキーターン』でした。選んだ理由を最大300字程度で、と仰せつかり、推敲に推敲を重ねた推薦文を下記に引用します。決して文字数を楽に稼ごうなどという浅薄な思惑はありません。それはもう、しっぽにかけて。

競艇はギャンブルで、スポーツではありません。スポーツは、ルールの上で勝負します。「勝ちたい」という原始的な熱を、球や足、腕や水といった手段で果たす。それがスポーツです。賭博である競艇は、その気持ちをボートに託します。しかし、エンジンやプロペラが強ければ勝てるとは限りません。それらはあくまで大事な相棒であり、心技体が整うことで始めて勝ちへの切符を手にできます。前言訂正します。競艇はギャンブルであり、同時にスポーツです。そして賭博だからこそ、観客たちは選手に実力を求めます。そういう意味でこの漫画は、スポーツ漫画の中でも特段厳しい世界に挑む選手たちの奮闘記とも言えます。

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『モンキーターン』(河合克敏/小学館)1巻より引用

「書いては消し、書いては消し」でようやく落ち着いた文なのですが、ほかの方のレビューを拝見すると文字数ガン無視刑事の方も多々いらっしゃり、法律から口約束まで大体遵守するこの姿勢が、竹谷の拭いきれない良さなのだなと自らを納得させました。

そうしてなんと、この企画での推薦がきっかけとなり、キャラクターのモデルとなったボートレーサーの方々と対談の機会を賜ることと相成りました。記事元の日本財団社は日本船舶振興会を前身とし、それこそボートレースの歴史とともに歩まれてきた団体です。そのため語りたいことが赤城山のようにあるのですが、本筋から大きく逸れてしまうがゆえここでは割愛し、竹谷のタンク並みにカタい表情をぜひご覧ください。

話を『モンキーターン』に戻します。この漫画の魅力は上にて凝縮した通りなのですが、もう少し述べると、真正面から物語に徹底しようとしている漫画ではないか思います。

プロ野球選手を目指していた主人公の波多野憲二(はたの・けんじ)が、ボートレーサーを目指し大成するまでを、サカナクションの名曲『新宝島』から拝借すると「丁寧丁寧丁寧に」描いています。

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『モンキーターン』(河合克敏/小学館)1巻より引用

その描写は大河ドラマのように太くて力強く、誇張したエロスや暴力といったものから距離を置き、外連味なく、レーサーとボートレースの対峙を読者の眼に届けてくれます。

ボートレースは、その賞金額の多さでも知られています。公式ウェブサイトのランキングによると、2021年度の7月25日までの獲得賞金トップは、峰竜太選手の9,500万円です。

これは、裏を返せば、それだけ厳しい世界にレーサーは住んでいる、と言えます。この世においしい話はなく、ハイリターンはハイリスクのもとでしか生じません。ボートレースに限らず、レーサーと呼ばれる方々は、常に危険と隣人付き合いをしながらその職務を全うしています。

波多野も、夢見る高校生から一人前のレーサーへと成長していくにつれ、ボートレースの険しい高壁を眼前にし、ぶつかります。

そこで必要となるのは、眠っていた力や潜んでいた血統ではありません。現実同様、自己と向き合い他者との交流から学び、研鑽を積むことだけです。

「近道はない」という、当たり前だけど忘れてしまいがちなことを、『モンキーターン』は波多野の姿勢を通じて教えてくれます。

”競艇”から”ボートレース”へ

『モンキーターン』の連載期間は、1996年から2005年です。

そのため、やむを得ないことではあるのですが、2021年の現在から見ると、描かれている情報はやや過去のものとなっています。

たとえば、ブランディングの観点から2010年より競艇は「ボートレース」、競艇選手は「レーサー」と呼称されていますし、作中でも頻繁に描かれる、選手が自前のプロペラを持ち込む通称「持ちペラ制」も、2012年に廃止となっています。

また、先ほどは獲得賞金について述べましたが、ボートレースは、選手生命が非常に長いスポーツと言われています。

去る2021年7月25日、波多野のモデルとなった濱野谷憲吾選手は47歳にして、最高峰の競走、すなわちSG(Special Grade)であるオーシャンカップを走り、14年4ヶ月ぶりとなる優勝を果たしました。

くしくも、この日は『モンキーターン』主人公波多野の誕生日でもあり、竹谷は勝手に熱さを感じ興奮していました。ちなみに、このレースの獲得賞金で、濱野谷選手は獲得賞金ランキングにおいて現在2位に浮上しています。

『モンキーターン』が完結しても、波多野はきっとレーサーを続けているはずです。連載開始の1996年に高校3年生、つまり18歳だとすると、現在は43歳。歴戦の勇士として、第一線で活躍しているに違いありません。

その波多野が、ボートレーサーを目指す若き主人公のどうしても越えたい存在として登場する、新たな『モンキーターン』。流行に便乗しただけの仮称を付けるなら、『シン・モンキーターン』。

ただの妄想にすぎませんが、新編を読みたいと思っている人々は竹谷以外にもたくさんいるのではないでしょうか。それほどの面白さが、『モンキーターン』には満載されています。

波多野の闘い方の通り、近道を求めず実直に、引き続き『モンキーターン』が好きだという熱を一層強く発信して参ります。

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お読みくださりありがとうございました!

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府中で働き府中に住む竹谷が、府中が競技を開催する平和島ボートレース場で胚胎された運命の産物『モンキーターン』のレビューを書く。考えてみれば、なかなかどうして必然な気がしてきます。

▽ミリアッシュはイラスト・ゲームイラスト制作会社です▽

▽eスポーツ会社DEPORTARを立ち上げました▽



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