見出し画像

あなたも星先生と振り回される。麗しき女子校シュール漫画『女の園の星』

「俺、男子校出身だからさ…….

というセリフを、「気が効かない」とか「女の扱いがわからない」という免罪符に使う人って一定数いますね。お前は何十年男子校を引きずるつもりだ、お前が住んでいるのは男子の街なのか、と突っ込みたくなります。

一方で女子校ってどんなところなんでしょう。

少なくとも、何十年も「女子校出身」を引きずるようになる場所ではないような気がします。

私は女子高校出身ですが、今考えればあそこは、人生のうちで数少ない女性上位社会でした。女の意思がすべてです。3人集まっただけでもかしましいのに、1クラス40人とかいるんだから騒音レベルで噂話が飛び交います。

私たちは教師に容赦なくあだ名を与えていて「目が濁っているからニゴ」とか「声が高いからピヨ」とか、直裁な命名をして、休み時間には先生のモノマネをしてました。

そのくせ自分の人権には敏感で、「先生、あれは酷いと思います!」とかいってクラスの全員で男性の体育教師を追い詰めたこともあります。

早弁上等だし、スカートの中に下敷き突っ込んであおいだり。そうそう、先生にちょっかい出して追いかけっこするのが流行ったりもしたなあ。

女の先生には畏怖の念があったけど、男の先生は単なるおもちゃ。まさに「女の園」です。

子どもから大人の女へ移行する間のモラトリアム女王期

この先、結婚相手の争奪戦が本格的になり色気づいてくる年代----大学生や社会人になると、男性の目や評価を意識せざるを得なくなっていきます。そして「愛されメイク」とか「愛されコーデ」とか気にして媚び出すわけだけど、その直前のわずかな時間、女子校の女子高生たちは天下無敵の時間を満喫するわけです。

女子校を描いた作品と言えば『純情クレイジーフルーツ』が有名でしょうか。女子達がとにかく元気にはしゃいでましたね。バブルの香りがします。そして令和になって登場したのが、この脱力系・女子校漫画『女の園の星』です。

星(ほし)先生のクラスでは、クラスの日誌の備考欄に「絵しりとり」を描くのが流行っています。前日はスマホが描かれていました。そして今日は、なんだか鬱々とした人の顔が描いてあります。「これは誰だろう」と星先生は悩むわけですが、たぶん読者全員が「お前のことだよ」と心の中で叫んでいるはず。

推理は翌日に持ち越され、星先生がドキドキしながら日誌を開いてみると今度はイカが描いてある。

ということは、「ホ」で始まり、「イ」で終わる人物……? 

「お前のことだよ!」と読者が心の中で合唱しているでしょう。

女子校の異常な日常を描くローテンションマンガ

物語では、大きな事件は起こりません。絵しりとりの謎を解くとか、超地味じゃないですか。このほかにも、漫画家を目指す生徒が、先生に描きかけの作品を見てもらっていました。でも、ちょっと胸に手を当ててみてください。たいていの漫画好きには黒歴史的なマイ・漫画作品があるんじゃありませんか?

私はありますぜ。

『桜の木の下で』という、生き別れになった双子の少女が、桜の木の下で再会する話です。本当は「ポプラの木の下」にしたかったんだけど、ポプラの葉っぱがどんな形かわからなかったので、桜に変更しました。タイトルなのに割といい加減です。なんで生き別れになったのか、なんで桜の木の下で再会できたのか謎です。70年代の少女マンガって、みなしごとか、生き別れとか、もらわれっことかのモチーフが多かったんですよね。戦後だからかな。

昔話じゃなくて現代でもありますね。私は「わくい犬」という犬のキャラクターをなんとか世に出したくて機会があるごとに売り込んでますが、とあるマンガ編集部で提案したところ、「僕はいいと思うんですけどね、編集部が厳しくて」って日をまたいで3回くらい言われたので、よっぽど断りたかったようです。

まあとにかく、生徒が持ってきた、間違いなく黒歴史的漫画作品を星先生が読んでいくんですが、漫画の荒唐無稽さはもちろん、星先生のリアクションもローテンションで面白い。このあたり、作者の優れたセンスを感じます。

この作品は、決して公衆の面前で読んではいけません。電車の中で無音で爆笑してブルブル震えてしまった。マスクしててよかった。

私今まで、女子校にあんまりいい思い出がなくて、付き合いの続いている友達もいないし、割と無駄な3年間だったと思っていたんだけど、実は満喫していたことを思い出しました。無駄がひとつなくなり、幸せです。

2巻が楽しみです。

WRITTEN by 和久井 香菜子
※東京マンガレビュアーズのTwitterはコチラ


この記事が参加している募集

読書感想文

ありがとうございます、そしてあなたの好きな漫画も教えてください。
4
読みたい漫画が見つかる漫画のレビューサイト。隠れた名作も、超王道も。様々な業界で活躍する漫画レビュアーたちが、独自の切り口でおもしろい漫画を紹介します。