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異世界もの、魔王もの、妹ものがブレンドされた、ひと味違う新王道漫画!『異世界行ったら、すでに妹が魔王として君臨していた話。』

今や「ロカボ」となった”異世界もの”。

「この漫画、オススメされたから買ったけどまだ読めていない…」

漫画に限らず、小説やアニメまたはゲームと、「あとで」と思い購入したものの、その後なかなか手に取る気分に至らず「積み」の状態となるのは、現代人のあるあるではないでしょうか。

時間がない、という理由は当然として、新しいコンテンツは「世界やキャラクターといった設定を脳へ落としこむためにエネルギーを使うから」だと思います。最近の表現を借りるなら、”高カロリー”と言えます。

たとえば”学園もの”は、接触するのにカロリーを使いません。なぜなら小中高と、多くの人が”学校”を経験しているからです。

「チャイムが鳴ると同時に、竹谷は廊下に出た」

この文だけで、チャイムが授業の終わりを示すことも、それまで教室という場所にいたことも、教室の外には廊下があることも、経験から容易に知っており、したがって場面の想像が難しくありません。

ほかの例を挙げると、夏の風物詩となりつつある大人気映画『サマーウォーズ』は、OZ(オズ)というちょっとカロリー高めな仮想空間を設定しつつも、まわりを夏・高校生・田舎・大家族といった糖質ゼロな情報で固めることで、老若男女が楽しめる内容となっています。『君の名は。』も『天気の子』も、高校生が主役であり、”恋愛もの”の要素もあります。恋愛も、多くの人々が経験するがゆえに、エンターテインメントでは不動のトップランカーとして引っ張りオクトパスです。

夏・中高生・青春(恋愛)の組み合わせは人気が出ると踏んだのか、最近は夏になると「中高生 × 恋愛」の映画が増えているような気がします。そういえば、歴史的名作『新世紀エヴァンゲリオン』も夏・中学生・青春(?)の要素が含まれていますね。

”異世界もの”に関しては、この記事を書いている2020年8月20日現在、小説投稿サイト「小説家になろう」でワード「異世界」を検索にかけると、驚くなかれなんと114,117作品がヒットします。全部で755,148作品なので、およそ15%にも及びます。事実として、それだけ多くの方が”異世界もの”に触れる、もしくは「異世界」という言葉を目にする機会が増えてきています。

コンテンツが溢れ返り、可処分時間争奪戦国時代は群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)と化している昨今、おいしいものをたらふく食べたいけど糖質が気になるのと同じように、ローカロリー、オシャレに言うなら「ロカボ」で、それでいて最大限楽しめるコンテンツを希求(ききゅう)する人々は少なくありません。

その状況下において、夢のようなファンタジー世界での冒険譚を描いた”異世界もの”は、コンテンツへ入りゆく枕詞として、これ以上ない成果を収めつつあるのではないでしょうか。

※この記事で言う”異世界もの”はファンタジーそのものではなく、”現実世界の人間が異世界へ行く物語全般”を指しています。

転移と転生。"異世界もの"の系譜を個人的になぞる。

”異世界もの”の起源は絶賛諸説検討中だそうで、果ては『古事記』と迷宮に入っていくようなので割愛します。あくまで1985年(昭和60年)生まれの竹谷個人の遍歴をたどってみます。

記憶に古く、ぱっと浮かぶのは『ふしぎ遊戯(1992年)』や『魔法騎士レイアース(1993年)』あたりですが、ほかにも近しい例として、ルイス・キャロル原作の小説(1865年)を映像化したディズニーの覇権的コンテンツである『ふしぎの国のアリス(1951年)』や、スタジオジブリの名作『千と千尋の神隠し(2001年)』も、みな異世界へ迷いこむ(転移する)少女の話です。

ゲームで言うなら、『FINAL FANTASY X(2001年)』では主人公・ティーダが異世界スピラへ転移します。ファミリーコンピュータ用の良作『ファミコンジャンプ 英雄列伝(1989年)』も、『週刊少年ジャンプ』を読んでいた少年がジャンプに吸い込まれて異世界へ行くゲームでした。

上記で挙げたように、異世界へ行くお話は少なくありませんが、連綿と”異世界もの”の作品は続いていても、ブームめいた風はまだ巻き起こってなかったように思います。

ブームの下地となった作品では、2006年にアニメ化されたヤマグチノボル氏の小説『ゼロの使い魔』は、声優の釘宮理恵さん演じるルイズ(正式名称ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール)の神がかった可愛さもあって、”異世界もの”の間口をかなり広げた作品ではないでしょうか。竹谷はタバサが好きです。

そして”異世界もの”ブームの火付け役となった作品のひとつに(厳密に言えば異世界ではありませんが)2012年にアニメが始まり現在なお絶大な人気を誇る川原礫氏の小説『ソードアート・オンライン(SAO)』が挙げられると思います。

現実の人間がそのままでなく、外見や性別、能力等が「生まれ変わり」、別世界で大活躍する。

上記の流れが定型化、つまり「ロカボ」化に、『SAO』はかなりの影響を与えたのではないでしょうか。そして長月達平氏の小説『Re:ゼロから始める異世界生活(リゼロ)』や伏瀬氏の小説『転生したらスライムだった件(転スラ)』、カルロ・ゼン氏の小説『幼女戦記』等、続々と”異世界もの”は認知され、その結果大きなジャンルのひとつとして定着していったように思います。ちなみに最近だと竹谷は『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』で書籍作りに勤しむマインが好きです。

その中、『異世界行ったら、すでに妹が魔王として君臨していた話。』(以下:異世界妹。)は、”異世界もの”として王道的でありながら、異世界へ行くのが主人公のみならず、妹も、しかも主人公より先に訪れており、しかものしかも、どういうわけか魔王とまで成り上がっていることで、物語に新たな軸が追加された漫画です。

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『異世界行ったら、すでに妹が魔王として君臨していた話。』(根田啓史/ナンバーナイン)1巻より引用

”魔王もの”と”妹もの”の要素と、生じる新たな軸。


『異世界妹。』の面白さはなんと言ってもまず、異世界転移した主人公・マコトが出会うのは、先に異世界へ飛ばされていた妹・ミサキであり、そしてその妹が魔王として一国を統治しているところです。あと言うまでもないことですが、ミサキが非常にかわいいです。

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『異世界行ったら、すでに妹が魔王として君臨していた話。』(根田啓史/ナンバーナイン)1巻より引用

”異世界もの”は往々にして、転移転生したあとの「これからどうなる」が気になります。圧倒的な強さで敵をなぎ倒していくのか、現代人ならではのテクノロジーや発想で周囲を驚かせていくのか、といった展開を楽しむものだと思います。しかし、『異世界妹。』では妹ミサキが先に魔王となっているがゆえに、「これまでどうしていたんだろう」と彼女の過去にも食指が動きます。

王女ではなく、村長や領主でもなく、魔王です。魔王の子として転生していたならその座を奪うことも簡単にできるやもですが、ぽつんとやってきて見知らぬ地で魔王となるのは、生半な才能(スキル)や努力では成し遂げられなかったはずです。また、勇者とはならず、そのアンチ存在である魔王へと到った経緯も気になります。

そして、もうひとつ特筆したいのは、作中で描かれる他国との争いです。主人公・マコトの説明を少しさせていただくと、彼は優しさ一辺倒の性格ゆえに非戦闘的で、人並み外れた膂力(りょりょく)があるわけでもなく、諸葛亮孔明(しょかつりょう・こうめい)のような頭脳で策を練る軍師タイプでもありません。つまり、彼は妹・ミサキと異なり、異世界で成り上がれない”弱い”キャラクターであり、もし仮にマコトだけ異世界へ行っていたなら、隣国との問題に臨める機会はほぼ皆無なのです。

それを可能にしているのは、もちろん魔王であり妹のミサキです。

異世界の国同士の争いは、主人公が国家間の問題という重大な事柄に参入できる立場にいないと物語が成り立ちません。通常であれば、転移転生後、異世界に慣れて仲間を増やし難事件をいくつか解決し、それが領主など権力ある者の視野に入り、力が認められてようやく国政に関与できる位置に立てる、となったりするものです。しかし『異世界妹。』では、妹が一国を取り仕切る魔王であるからこそ、最初から国を取り巻く物語に入っていけます。ちなみに竹谷は同盟国フェンリルシルトのフェンリル=ファムファムが好きです。かわいいです。

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『異世界行ったら、すでに妹が魔王として君臨していた話。』(根田啓史/ナンバーナイン)1巻より引用

とはいえ、信じられないほどの強さを持つ妹・ミサキと異なり、マコトは現時点では戦える力を持っておらず、また戦う意志も見せていません。そのような状態のマコトが、優しい心だけでどこまで「魔王」の隣にいられるのか。魔王のアンチ存在である勇者は、今後いつか出てくるのか。もしくは、マコトこそが来る日に勇者となる存在なのか。

対照的な性格・スキルを持った”強者”の妹と”弱者”の兄に、いずれ対立する時が待っているのか。

妹と兄の可愛らしいやり取りに和みつつも、どことなく緊張感の漂う空気。ただの”異世界もの”だけでは終わらない物語が、『異世界妹。』にはあります。

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WRITTEN by 竹谷 彰人
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