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「お客様は仏様です。」の理念と条例に基づいて私たちの死は処理され、真実は明らかにされる。『死役所』

死んだ後、私たちが向かう場所

私たちは死の先に何があるのか知らない。自らの死後、周縁で何が起こったかを知ることもできない。生と死は連続であると考えることもできれば、完全な「無」であるとも想像できる。「死」は無限の想像性を私たちに持たせる未知の世界である。

本書は、何らかの理由により亡くなった死者が成仏するため、そして、次の道を決めるため、必ず立ち寄らなければならない「死役所」の業務を通じ、死者と残された周縁者たちの事実と真実を描いた漫画である。

死因ごとに管理され、明らかになる真実

死役所の部課名は「死因」ごとになっており、死者は各窓口で複数の書類、煩雑な項目を埋めて申請しなければならない。死亡日より49日間に手続きをしない場合、死者は冥途の道をさまようことになる(成仏に関する条例第■条)。

死者から申請されるのは、虐待死や事故死、いじめによる自殺、刑罰による死など、私たちの社会で起こる目をそらせたくなるような死因だ。本人の死後、現世では本人の認識とは異なる真実が明らかにされる。

恩人を助けるために職場で事故死した女性は、その恩人が苦難の道を歩んできた他者を食い物にしてきたことを知らない。

いじめにより自殺した少年は義父の無関心を嘆いていたが、その義父が加害者の少年を死に至らしめていたことが発覚し、義父に愛されていた事を感謝する。

虐待死した女の子は誰が見ても虐待であるが、母親が見せた小さな優しさを死後も抱きしめている。

条例により死刑者は死役所で職員として働かなければならない。死役所職員は、死者より死亡にかかる申請書を受理し、条例に基づいて粛々と手続きをしていく。聞かれなければ答えない。融通を効かせることもない。まさに「お役所仕事」ではあるが、その端々に職員の価値観や死役所で働くに至った背景が悲しみや怒りとともに放たれる。

「自殺申請書」「他殺による死亡許可書」「成仏許可申請書」「挺身申請書」「交通事故死申請書」など、成仏するためには多くの申請が必要であり、死後に至っても続く申請主義は、何事も誰かが決めたルールと膨大な申請書類を辟易しながらも受け入れて暮らす私たちの日常を振り返らせるのである。

WRITTEN by 工藤 啓
※「マンガ新聞」に掲載されていたレビューを転載
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