「刃牙」シリーズの異色にして高い完成度を誇る宮本武蔵編は、強者の退屈から始まった『刃牙道』
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「刃牙」シリーズの異色にして高い完成度を誇る宮本武蔵編は、強者の退屈から始まった『刃牙道』

【レビュアー/松山洋

最近になってまた『刃牙道』全22巻を読み直してみました。

物凄く面白かった!

『刃牙』シリーズは歴史も長くてシリーズ1作目にあたる『グラップラー刃牙』の連載開始が1991年なので実に30年に及びます。

『刃牙道』はシリーズ4作目にあたる作品で、現代のクローン技術であの宮本武蔵が蘇ったらどれくらい強いの?というなんとも破天荒で衝撃的な物語です。

私は週刊少年チャンピオン誌面でも連載を欠かさず読んでいますので、『刃牙道』のシリーズも毎週興奮しながら読んでいました。

で、先日ふと思い立って全22巻を読み直してみたら、毎週連載の時とはまた違った印象で、その感想は「思っていた以上にシリーズ通して一貫した面白さとテーマ構成が抜群に良く出来ている」といったものでした。

全ては強者たちの退屈から始まった

シリーズ冒頭で主人公・範馬刃牙(はんま・ばき)をはじめとした多くの強者たちが退屈しているところから物語が幕を開けます。

強くなりすぎてしまった者たちは日々の脅威を感じなくなり、求めても求めても訪れない危機に退屈を感じていて、皆あくびが止まらないという描写が印象的です。

そこにクローン技術によって蘇った宮本武蔵が登場することで、退屈だった日常がひっくり返って、やがてあくびは止まります。

だって時代も人間性も価値観も異なる化物が現代に突然現れるわけですから、皆の興味は止まりません。

「いったいどれくらい強いんだろう?」

価値観をひっくり返すのが板垣流

ご想像のとおり、復活した武蔵に興味を持った強者たちが次々と宮本武蔵に向かっていきます。

あの手この手で理由を作っては宮本武蔵に挑んでは敗れていきます。

主人公である範馬刃牙も愚地独歩(おろち・どっぽ)も敗れ、ましてやあの烈海王(れつ・かいおう)は敗れるどころか殺されてしまいます。(!)

そこで登場するのが武を本質とする老武闘家・本部以蔵(もとべ・いぞう)です。

これまでのシリーズにも定期的に登場はしてきましたが、これといった見せ場もなく、ただの解説者という役柄が似合うただのじいさんに見えていましたが、武の本質をもっとも捉えていたのがこの本部以蔵だったことが証明されます。

試合ではなく死合となった時には競技者の出る幕は無くなる、という考え方から全ての強者を宮本武蔵から守ろうとします。(あの範馬勇次郎ですら守ろうとしてブチ切れられる)

自衛隊にも止められない宮本武蔵を反社にお願いする

現代の社会の中で、人を斬ることで上り詰めようとする宮本武蔵はやはり客観的に見ても(誰の目から見ても)犯罪者です。

やがて警察機構は宮本武蔵を黙認出来なくなり、自衛隊を投入して捕縛しようと試みますがあえなく全滅し多くの殉死者を出してしまいます。

自衛隊でも止められなかった宮本武蔵をなんとかするために政府は反社会的組織(暴力団)に依頼をすることになります。

そうです、『刃牙』の世界でヤクザといえばこの人・(みんな大好き)花山薫(はなやま・かおる)そのひとです。

花山薫と宮本武蔵のカードは必見です。

もともと人とは違う美学で生きているヤクザ(花山薫)が宮本武蔵とどのようにぶつかりどういった結末を迎えるのかはぜひ実際に読んで見届けて欲しいです。(きっとまた花山薫が好きになります)

現代の孤独を知る者同士の言葉にしない繋がり

実は物語の中盤でピクルも登場して宮本武蔵と闘っています。現代に蘇ったのはピクルのほうが先で、そもそも出身は恐竜がいたころの太古の時代ですので時代錯誤はお互い様です。

原始VS武士という異色の対決も非常に面白かったのですが、実はそれだけでは終わりませんでした。

自衛隊や政府から追われるようになった宮本武蔵は人知れず地下道に隠れ住んでいたピクルに再び会いにいくのです。

もちろんピクル自身が言葉が話せないことはわかっています。

無言のやり取りの中で会話をしてピクルのもとを離れる宮本武蔵はきっと自分と同じ孤独を持つ境遇にシンパシーを感じていたのかもしれません。

私はこのへんの一貫したテーマ性をもった漫画表現が非常に好きでした。

全22巻でひとつの物語が完結している

あらためて『刃牙道』を読み直して、シリーズの中でも異色中の異色である本作がこうした一貫したテーマで描かれていることに気付かされました。

そしてそれはとても素敵なテーマであり、「ただ強くありたいと渇望する」他シリーズとは全く異なる完成度を持っています。

「もし現代に宮本武蔵が蘇ったら」なんて素っ頓狂な始まり出しではありますが、俯瞰して読むことで全体的なエンタメ性とその奥にある本質が浮き彫りになってきます。

また「蘇ってしまったもの(宮本武蔵)を最終的にどうするのか」という結末も必見です。

現在は「VSお相撲さん」というシリーズ5作目にあたる『バキ道』が連載中ですが、こちらはまだまだ先の展開がどうなるのか全くの未知ですのでゆっくりと追いかけていきつつ。

シリーズの中で最も完成度の高い物語を堪能してみてはいかがでしょうか。



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