
「宅配」されるのは果物の名前がついた女の子――。『フルーツ宅配便~私がデリヘル嬢である理由~』に描かれた刹那的な世界
今回おすすめする漫画のタイトルは『フルーツ宅配便』。
と言っても文字通り果物が宅配されてくるわけではない。「宅配」されてくるのは果物の名前がついた「女の子」である。
いわゆるデリバリーヘルスという業態が描かれている漫画だ。
ヘルスというのは、風営法が出来て事実上禁止された管理売春(売買春は違法だが罰則規定はない。処罰されるのは管理売春である)の狭間を縫うようにして出来た「本番NG」の業態である。
ソープランドが個室サウナで背中を流す女性従業員と客が突然恋愛関係になって本番行為を行ったという建てつけよりは、まだ合法的ではあるが…。
(なのでソープランドにはかならず一人用サウナマシーンが備え付けてある。使われた形跡は勿論ない)
ソープランドはそのグレーさ故に新設はほぼ無理だが、デリバリーヘルスは続々と立ち上がっている。
しかもヤクザ者の運営というよりはむしろ、一般人が運営していることが多いようだ。店舗も必要ないし女の子1人いれば立ち上げることが可能だからだろう。
(ニューハーフデリバリーヘルスも存在し、その場合は男の娘やニューハーフが在籍する)
本作『フルーツ宅配便~私がデリヘル嬢である理由~』には、たまたまラーメン屋の常連同士で知り合ったオーナーと、勤めていた会社が潰れて田舎に帰ってきた見習い店長、そして送りの運転手、女の子たちの人間模様が描かれている。
以前『闇金ウシジマくん』の対談でデリバリーヘルス嬢の悲惨な現実を語ったことがある。
東日本大震災で実家の屋根瓦が落ちて、悪徳修理業者の営業にひっかかり、多額の借金を負った両親の借金を返済するために隣県のデリバリーヘルスで働き、ストレスでジャンクフードを食べ過ぎてデブるという悪循環に陥るような、真面目なんだけど馬鹿な女の子がハマるんだなあと。
本作にもそんな話が目白押しである。
整形のためとか、高級ブランド品が欲しいからという話ならまだ救いがあるが、この漫画に出てくる女の子たちは、本来であればちゃぶ台返しをしてもいいような事案でデリバリーヘルスの世界に「落ちて」くる。
オーナーはこう言う。
「あんまり店の子に感情移入すんな…
おれらに人なんか救えない。」
淡々とデリバリーヘルス業務をこなすだけなのだ。
そんな刹那的な世界が私たちの日常と隣り合わせの世界にあるのだ。
WRITTEN by 堀江 貴文
※「マンガ新聞」に掲載されていたレビューを転載
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