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『孤独のグルメ』だけじゃない。世界が認める漫画家・谷口ジローの魅力をコルク・佐渡島庸平が語る

こちらの記事は「編集者 佐渡島チャンネル【ドラゴン桜】」で佐渡島 庸平氏が紹介した漫画の文字起こし記事です(東京マンガレビュアーズ編集部)

今日は「必読マンガ家シリーズ」をご紹介したいと思います。もう読んでいないと人生を損している。いや、読んでいないからこそ今から一気読みできて、人生がより楽しくなる。そんな漫画家を紹介するコーナーです。

今回は谷口ジローさんを紹介したいと思います。

『孤独のグルメ』だけじゃない。谷口ジローは世界的に人気のある、芸術性の高い漫画家だ。

皆さんは谷口ジローという漫画家を知っていますか?僕は高校時代に谷口ジロー作品を読んで大好きになりました。大学時代には谷口さんの本は全部集めて読み、卒業後モーニング編集部に配属された際、入社1年目にすぐに会いに行きました。

そこから6、7年かけて口説き、そしてやっと1作だけ作品をやりました。

それがどんな作品なのかは後半に話そうと思いますが….

谷口ジロー作品といいえば、多くの人は『孤独のグルメ』を思い浮かべるのではないでしょうか?ドラマにもなっている作品です。

『孤独のグルメ』は本当に色んな料理店に、ある種B級のお店に食べに行き、「おいしい」と味わう漫画です。食べることが中心のグルメ漫画の流れを作るきっかけとなった作品です。『孤独のグルメ』は全世界で、中国とか、台湾とか韓国でも大流行しています。

そんな谷口ジローさんなのですが、ずっとこのような大ヒット作品がなかなか出なくて、『孤独のグルメ』で大ヒットし、すごく喜んでいました。しかし、同時に、『孤独のグルメ』だけが売れているってことにすごく悲しんでたんですよね。

谷口ジローさんは、アーティスティックな文学作品のような、まるで小説を読んだような感覚になれる、美しい漫画を描く人なんですよね。

実は、谷口ジローさんはずっとフランスとイタリアを中心としたヨーロッパではすごく評価されていました。

日本よりもずっとヨーロッパのほうが作品がいっぱい出る、部数がいっぱい出るような作家さんなんです。なので、フランス文学作品のなかでも、出てくる主人公が谷口ジローさんの漫画を読んでいる描写がいくつか出てくる事もあります。

結構おしゃれで繊細な感じの主人公が読む作品としてフランスの小説に書かれていたりします。

僕も担当編集をしていたので、フランス小説を読んでいるときに谷口さんの作品が出てくると「ここにも谷口さんの作品が広がっているんだ」と嬉しくなります。

歴史を、日本を体感できる。『坊っちゃんの時代』

僕は高校時代に谷口作品を読み始めたと言いましたが、それは日本史の授業を受けているときに先生に「君らは教科書読んだり、いろいろな参考書読んだりするんじゃなくて、谷口ジローを読みなさい」と言われた事が発端です。

「谷口ジローの『坊っちゃんの時代』という作品を読むと、明治時代の空気感がわかり、どうのように社会が変化し、当時の人たちが何を考えていたかがわかるんですよ」と言われました。

「最も歴史を理解でき、日本というものを理解できるから読みなさい」というように一生懸命先生がすすめていたので、「じゃあちょっと受験勉強の代わりに読んでみるか」みたいな感じで『坊っちゃんの時代』を読みだしたんです。

『坊っちゃんの時代』は、夏目漱石を主軸にして明治を語るという作品です。

夏目漱石のあとは石川啄木の目から見た明治を語り、その後はずっと文学者が中心となりながら明治から大正時代が描かれていきます。

漫画家を描いている「作家」が、文学作品を読みながらこの文学家はどんな性格だろうなという事を描いているから、とてつもなくリアルなんです。

人生に苦しみながら、社会の波に翻弄されながら、その波を感じながら作品が生まれていくのか。

高校生のときの僕は、自身が小説家や文学の研究者になりたいという夢を持っていた事もあり、この漫画を読みながら「作品はこんなふうに生まれるのか」と、歴史に残る作品が生まれる瞬間をリアルタイムに読んでいる感覚を覚えました。

それだけではなく、明治大正について深く知れ、受験勉強の代わりにもなるので、何度も読み直していたんですよね。

高校時代にはそういったかたちで、勉強の一環として読みだしたんだけれども、そのまま大学時代も繰り返し谷口さんの作品は読んでいました。

淡々としているが、心に迫る。『犬を飼う』

谷口ジローさんは、すごく丁寧に物語を描くんですよね。谷口ジローさんの代表作は「小学館漫画賞」を取った作品『犬を飼う』というのがあります。これはもう中編、短編と言ってもいい作品です。

『犬を飼う』、『犬を飼う そして…猫を飼う』という作品があるんですけれども、犬を飼っていて亡くなってしまった主人の気持ちを描いた作品なんです。それがもう、全く派手な描写がなく、ただただ淡々と犬が亡くなってしまった飼い主の気持ちが描かれていて、派手さが全くないのにすごいぐっとくるんですよね。

こういうふうな本当に淡々と描いている漫画で、ぐっとくる感じがなかなかなくて。これは本当に良い漫画です。

犬とか猫を飼ったことがある人はもうぐっときて、すごい大好きだと思えるんじゃないかなって思います。

静かに山と自分と向き合う生き様。『神々の山嶺』

静かな作品を魅力的に感じています。静かな作品では、『神々の山嶺』という夢枕獏さん原作のものを谷口ジローさんが描いているものがあります。

登山の作品なのですが、この「山を登っているところ」というのは、誰かと戦っている格闘技のようなタイプの戦いではなくて、淡々と山と向き合っているんです。

その山と向き合い、崖に登りながら、いろんなことを考えたりする。そんな男の生き様っていうのがむちゃくちゃかっこいいんです。

終わりに

谷口ジローを読んだことがない人に僕がおすすめする3作品は、『坊っちゃんの時代』、『犬を飼う』、『神々の山嶺』この三つです。この三つはぜひ読んでほしいです。もうこの三つが全く方向性が違うのにむちゃくちゃ面白いんです。

そんな作品を描き切るのが、谷口ジローのすごさですよね。

だから、『孤独のグルメ』しか知らないのは谷口ジローを正直何も知らないに等しいです。

それはもうすごく損をしている。谷口ジローの神髄は今言った3冊にあります。その3冊にはまったら、もっともっと読んでみてください。

僕がやった作品は何なのかというと、『ふらり。』という作品です。

これはもう死ぬほど地味なんです。

谷口ジローさんが『孤独のグルメ』のもっと前にやっていた作品で散歩の話があるんですね。

その散歩する『歩くひと』っていう作品なんですけれども、それはただただ散歩していて街の良さに気付くという作品なんですけれども、街の良さに気付く事を丁寧に地味に描けているところがとても素敵で。僕はこんな作家さん他にいないなと、それが素晴らしいと思ったんです。

でも『歩くひと』っていうはそんなに売れてない。

『孤独のグルメ』が売れちゃっていて、これはグルメものって思われてる。

それだけじゃなくて、谷口ジローの魅力がもっと伝わってほしいなっていうふうに思っていて、どうすればいいだろうっていうふうに思って、それで「江戸の街を歩く人」っていうのを描いてみたらどうだろうと考えました。江戸の街を歩きながら、江戸の街の何かに気づいていくというかたちで。

江戸の街歩きみたいな感じで、東京を歩きながら江戸を感じる。ブラタモリとかの雰囲気で、そんな本が売れていたりしたので、歩くということと江戸の歴史を組み合わせてみるとどうだろうって思ったんです。

僕は入社1年目のときに谷口ジローさんに会いに行って、毎年に2回とか3回とか定期的に食事をして、「谷口さん、僕の人生において、谷口さんはすごく影響を与えてくれた作家さんなので、ぜひ一緒に仕事したいです」ということをずっと言い続けてました。

「じゃあそろそろ一緒に考えましょうか」と、5、6年経った頃に言ってもらえて、そこから原稿をいただくのも、3カ月に1本とすごくゆっくりで、それが緩やかにたまっていって…やっと連載をして単行本1巻分だけ作れたのが『ふらり。』なんですよね。

先ほどの僕の人生にすごく影響を与えた3作品。それに比べると『ふらり。』はちょっと地味かもしれないんですけれども、僕にとっては谷口ジローさんとの思い出がすごく詰まっています。

実際に僕が愛してやまなかった、学生のときから尊敬しまくっていた作家さんと一緒に仕事ができたっていうことで、僕の人生にとってすごく大事な作品は『ふらり。』だったりします。

エージェントになって、こういうふうに講談社を辞めてしまったりすると仕事をするきっかけっていうのがなかったりするんですが、辞めてしばらくして谷口さんと電話でしゃべってたりすると「実はちょっと体調が悪いんだ」ということを伺ったりだとか、他の人から「谷口さんは自分で言っているよりもどうも体調が悪いらしいよ」っていうのを聞いたりしていました。

そして若いまま谷口さんが亡くなりました。もっともっと作品が描けたのに。

やっぱり谷口さんが亡くなったあとは、ずっと僕の中で緩やかな喪失感みたいなものがあって。それはまだ今もあるんですよね。

もっと読みたかったなっていう気持ちがある。

僕はやっぱり谷口さんのことが大好きで、谷口さんの作品っていうのはもっともっとみんなに読んでほしいなと思います。

谷口さんと会っていたときに、フランスやイタリアの方が読むみたいに、自分の作品を読んでくれたらな、とか。俺の魅力、俺が本当に描きたい、もちろん『孤独のグルメ』も描きたいと思って描いてるんだけれども、もっともっと俺らしさが出ている作品ていうのを日本人が読んでくれたらなっていうのを、会うたびにいつも言ってたんですよね。

だからぜひこのYouTubeを見た人は今僕がおすすめした本、そして、谷口ジローにはまって読んでみてもらえればなと思います。

※文字起こし:ブラインドライターズ

Editted by タカハシ東京マンガレビュアーズ編集部)





好きの気持ちが僕たちを強くさせます(ありがとうございます)。
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