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【タイトル考察】なぜ、趣味でヒーローをやるサイタマが”ワンパンマン”ではないのか『ワンパンマン』

【レビュアー/竹谷 彰人

漫画のタイトルとその物語との関わり

漫画に限らず、アニメ、ゲーム、映画、音楽等、この世に溢れるエンタメにはタイトルがあります。たとえば、今竹谷はこの記事を書くお供として、芥見下々先生の漫画『呪術廻戦』のアニメ楽曲である『廻廻奇譚』と『LOST IN PARADISE』をスピーカーから流しています。この文章だけで、もう3つもタイトルが登場しました。

皆さんも、心に残っているタイトルがあるのではないでしょうか。

タイトルだけではなく、サブタイトルでも忘れられないものもあるかと思います。漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の第5部に出てくるサブタイトル「今にも落ちてきそうな空の下で」は、その内容も合わさり多くの方の感情を揺らしたことではないでしょうか。

興味を持ってもらうため、手に取ってもらうため、思わず刀身が赤く染まってしまうような渾身の力をひとはタイトルに籠めます。

今アニメでファイナルシーズンが放映中の諌山創先生による『進撃の巨人』を例に挙げると、タイトルから巨人の話なのだろうということは推測できても、”進撃”の意味を計り兼ね、結果もくもくと好奇心が湧いていきます。

そして読み進めて後半の後半、「進撃ってそういう意味だったのか!」という展開になります。

昨今の言葉を借りるなら、”タイトル回収”と呼称すべきでしょうか。

藤田和日郎先生の漫画『双亡亭壊すべし』は、恐ろしい館の双亡亭を壊すためその建物に挑む人々のお話です。目的がそのままタイトルとして付けられたように考えられます。

横田卓馬先生・伊瀬勝良先生の『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』は、読むひとが読むと、なんだか『マジック:ザ・ギャザリング』風だなあと感じてしまうような、カードゲームらしい文言が絶妙に出ています。

昨今ではライトノベルから始まっただろう、長めのタイトルも流行を越えて定着したひとつの文化のように思います。

また、弘兼憲史先生の漫画『島耕作』シリーズや藤本タツキ先生の漫画『チェンソーマン』のように、主人公や登場人物そのものがタイトルとなるものもあります。シンプル・イズ・ベストゆえに力強く、そしてタイトルを飾るに相応しい魅力を持ったキャラクターが紙面で暴れ活躍します。

マーベルのアベンジャーズシリーズ(MCU)では『アイアンマン』から『スパイダーマン』、『ブラックパンサー』等、ヒーローそのものがそのままタイトルとなりケースが多く見受けられます。

今回オススメするONE先生・村田雄介先生の漫画『ワンパンマン』は、同じく超越的な力を持つヒーローが主人公の物語でありながら、とはいえただのヒーローもので終わらない絶妙な面白さで、ひたすらにページをめくってしまう漫画です。

プロのヒーローと趣味のヒーローが存在する世界

先日書いた『鬼滅の刃』のレビューの中で、ヒーローを下記の3つに大別しました。

①勇気と才智ある人物、豪傑
②半神
③物語の主人公

『ワンパンマン』の主人公サイタマは①と③を備え、強調するなら①の要素である”長けた身体的能力”、いえ、ただの身体的能力と言うのが憚られるほどの膂力をその身に宿しており、ゲームのラスボスとして登場してきそうな怪人たちをことごとくを一撃で、すなわち”ワンパン”で倒してしまいます。

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『ワンパンマン』(ONE/村田雄介/集英社)1巻より引用

かの名作『アイシールド21』で皆さんは先刻ご承知であろう、村田雄介先生の圧倒的な画力による”ワンパン”のワンパン感(?)は、聞くと見るとでは大違いの決めゴマが連続します。

ちなみに竹谷は埼玉県さいたま市(中浦和)出身で、あまり治安の良くない中学校に通っていました。

その時、名前の順でたまたま前の席となった帰国子女兼札付きの不良・タケナカくんと仲が良かったのですが、かれの言葉で初めて「ワンパン」を見知ったように覚えています。

そのため、サイタマとワンパンのリンクにはひとかたならぬ共感を勝手に覚えています。

ところで、ヒーローの目的は何でしょうか。

人類に仇なす悪の組織や人ならざる悪しき存在から人々を守り、闘い、そして平和をもたらすこと。

換言するなら、”正義に味方すること”でしょうか。これは、皆さん同意に難くない内容かと思います。

『ワンパンマン』の場合も、敵は人類ないし地球を滅ぼさんとする怪人であるため、倒さなくてはならない存在として明確なのですが、ヒーローの数が驚くほど多いのです。

そしてその多さは、集団となった際の人間らしさを孕みます。

本作では、色々なヒーローたちが出てきます。しかしそれは、アベンジャーズのように自然と連なりゆく運命の産物ではなく、ゲーム「ドラゴンクエスト」の「ルイーダの酒場」でのように、ヒーロー協会の名簿へ登録しなけれればヒーローとは認識されません。

そう、『ワンパンマン』においてヒーローは概念でなく職業なのです。

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『ワンパンマン』(ONE/村田雄介/集英社)2巻より引用

そして、ヒーローはランク付けされます。

C・B・A・S級のクラスに分けられ、さらにその中で成果に応じた順位が与えられ、報酬が連動します。

当然ですが仕事をしなければ、つまり怪人討伐を始めとした業務を日々こなして人々の役に立たなければ、ランクは下がっていきます。

まるで営業会社のようにシビアな人事制度が敷かれた、実力かつ結果主義の世界です。

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『ワンパンマン』(ONE/村田雄介/集英社)2巻より引用

大多数のヒーローは人助けとランクアップを両輪の目標として掲げ、文字通り自らを犠牲にしながら闘いを続けます。

しかし、新人ないし下位層であるC級を抜けてB級やA級になってくると、また異なった感情が芽生えてくるヒーローもいます。

これより上位へは進まず、今の地位を守りたい。
派閥を作り、そこまで強くなさそうな怪人をみんなで安全に倒して報酬を山分けしよう。
下がらず、上がらず、現状維持で。

強いからこそ、他者の強さがわかってしまう。

ゆえに、自らの力をゆうに超える怪人も、その怪人たちに伍すばかりか打ち勝つS級ヒーローたちも、理解の外にある恐怖の的として映ってしまいます。

いつからか、ひとを助けるよりもランクを常に気にして、保身に走るヒーローたち。個人的には、なんとも人間らしくて憎めません。

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『ワンパンマン』(ONE/村田雄介/集英社)2巻より引用

趣味でヒーローをやっている者のヒーローらしさ

そのような中、サイタマはただ強いと言うだけでは足りないほど強いです。

したがって心は揺るがず、お金は気にしつつも報酬を気に留めず、ランクも意に介しません。

ゆえに誰に対してもフラットに接し、眼前の敵と”ワンパン”以上闘えて、あわよくば苦戦したいとさえ思いながら戦場に臨みます。

そんなかれは、当初ヒーローという職業があることも知らず、趣味でヒーローを行っていたくらいでした。

ランク至上主義のヒーロー協会やほかのヒーローたちに疑念を抱かれようとも、ただひとを助け怪人を沈めていくかれは、『ワンパンマン』の世界のヒーロー群からもっとも離れた存在でありながら、その実誰よりもヒーローのようではありませんか。

実際のサイタマの”ワンパン”ぶりと、その無為な言動のかっこよさは、ぜひ本編を読んでいただければと思います。

そして最後に、特筆しておきたい点があります。

ヒーロー名簿です。

そう、ヒーロー名簿には名前が必要になります。『ワンパンマン』がサイタマを指したことであるのは鏡にかけて見るように明らかですが、しかし作中では一度も”ワンパンマン”という言葉は出てきません。

サイタマは登録することでヒーローとしての名をもらいますが、それはワンパンマンではないのです

主人公そのものがタイトルとなる漫画、として『ワンパンマン』を挙げさせていただきましたが、もしかしたら、この漫画はいつかサイタマが満を持して賞賛とともに”ワンパンマン”と呼ばれゆくためのヒーロー譚なのかもしれません。

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お読みくださりありがとうございました!

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人生初となるボルタリングのあくる日、夜に向け増していく筋肉痛でキーボードを打つのさえ少しつらい指を揉捻しながら。

▽株式会社ミリアッシュはイラスト制作会社です▽

WRITTEN by 竹谷彰人
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