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女が男の餌食になる?山岸凉子の衝撃作に描かれた「ジェンダーの呪縛」がトラウマレベル『日出処の天子』

【レビュアー/こやま淳子

こっちの歴史が正しいに違いない!?

またもやコロナで自粛生活を余儀なくされる今日この頃。

こんなときは、名作漫画を読むチャンスだと考えてみるのはどうだろうか。

そう、有名すぎていまさら読むのもなあ…なんて思いながら機会を逃していたあの作品やあの作品。

私がオススメしたいのは、山岸凉子先生の『日出処の天子』である。

これは厩戸王子(うまやどのおうじ:聖徳太子)が超能力者でゲイだったという、かなりトンデモな設定なのだが、しかし読み進めるうちにむしろこれが真実なのでは? と思えてくるくらい圧倒的におもしろく説得力のあるストーリーなのである。

ここで描かれる厩戸王子は、決して聖人君子ではなく、誰よりも策士で、ときには狡猾に誰かを陥れたり、ときには冷酷に人を殺めたりしながら、仏道の普及や政治を推し進めていく。

しかしそんな王子が、一方では母親との関係や恋愛に苦しみ、孤独に陥っていく様子に感情移入し、どんどんかわいく見えてくる

まあ、よくもこんなにひねくれて、こんなに魅力的なキャラクターを作れたものだと思う。

ジェンダーの呪縛とドロドロの恋愛劇

そして、この漫画のもうひとつの大きなテーマは、いわゆる「ジェンダーの呪縛」ではないだろうか。

ここにはme tooなご時世になったいまでも通じるような、理不尽や不条理が描かれている。

その裏の主役とも言えるのが、蘇我毛人(そがのえみし:蘇我蝦夷)の妹・刀自古(とじこ)だろう。

詳しくはネタバレになるので書けないが、母親との関係や自身のセクシャリティに悩み、女性性を否定する存在が厩戸王子だとすると、刀自古は女性性の象徴のようなところがあって、女であるがゆえに受ける理不尽、悲劇、情念、いやらしさ。すべてがこの刀自古に込められている。

こんな事 あっていいはずがない
いつも女が 男の餌食にされるなんて 

まだジェンダーにまつわる様々な問題もわかっていない子どもの頃に読んだときも、この刀自古のモノローグには震えた。まあちょっとトラウマになっちゃうような強烈な読書体験だったかもしれない。

その2人の間に挟まれる毛人は極めて平凡な男性なのだが、不思議なことにそんな平凡な毛人を中心に、三角とも四角とも言える関係が形成される。

そしてそんなドロドロの恋愛劇が、壮大な歴史と絡み合い、どんどん史実と合致していくのだ。おもしろくないわけがない。

1980年に連載されていた当初も、衝撃的な作品として、当時少女だった私たちを夢中にさせたが、その鮮烈さは現在も色褪せることがない。

まあ控えめに言っても、この作品を読まずにいるのは人生の損失なのではないだろうか。


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