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35歳独身結婚できないこじらせ男がこの漫画を読んだら「普通」を死語にしたくなった『結婚するって、本当ですか』

【レビュアー/竹谷彰人】

35歳独身男性の結婚観の一例

「おおきくなったら、おかあさんとけっこんする」

小さい頃は、そう声を荒げていたように覚えています。高校生くらいの頃は、なんとなく10年後くらいには結婚しているだろう、とモテず恋人もおらずで想像していました。社会人になり、「結婚」の解像度が高くなるにつれ、自らの稼ぐ力や将来の家族計画、そしてそれに伴う責任等を考えることが多くなりました。

遡ること5年前、人生でそこそこの節目である30歳を迎えた際、竹谷は頭の中でこう考え続けていました。

「よし、会社を作ろう」

今生において重きを占めるはずだった結婚に対し、考慮の余地が跡形もなく消え去っていました。

今、35歳にしてあらためて思います。ひとはなぜ、結婚するのだろうかと。そうです、完全に頭がこじれています。このこじれに、もう少しお付き合いください。

「30過ぎて結婚していないのは、性格に問題があるから」

こういう風な言い回しを、見聞きしたことのある方は多いのではないでしょうか。自己に当てはめてみるに、確かに性格は真っ黒で良くはない。とはいえしかし、もちろんそれは重々承知の上で、先に述べた通り結婚できない理由は下記のような面もあるのではないでしょうか。

「結婚に対して、あれこれ考えすぎて思考回路がこじれている」

30年もの期間をそれなりに生きていると、保護者に保護されずとも、ある程度自分だけで生きていけるようになります。仕事を通じて貰った賃金を、好きなことに投資ないし浪費し、楽しい日々を送れます。竹谷の場合は、ゲームとアニメと、そして漫画があれば大の大満足です。

物心ついた頃から我が物顔で脳裏に住んでいたはずの”結婚”は、気付けば見えなくなるほど小さくなっていました。

配偶者がいて、子がいる知人は周囲にたくさんいます。かれらを見ていて竈門炭治郎の如く和やかに微笑むことは山ほどあれど、「私も続こう」とは思うのはどうしてか難しくなりました。

仮に恋人がいたとして、そのひととずっと一緒にいられればいいのではないか。戸籍を変え、契約を結び、大掛かりな儀式を催し、ご祝儀という名のクラウドファンディングをせずともいいのではないだろうか。1万円も3万円も畢竟(ひっきょう)偶数なのだから割れるではないか、なぜ2万円だけ縁起が悪しと言われるのか、などと、どうでもいいことに論点が進むほどこじれています。

まだまだ、結婚は人生の通路として”普通”と見なされていそうです。換言するなら、”平均”でしょうか。

そう考えると竹谷は、大通りを外れたバックストリートにいる、普通・平均になれないボーイズのひとりなのかもしれません。この記事を書いている間も、隣できれいな寝顔を見せている「PlayStation 5」のことを想っては、そちらに薄い後ろ髪が引かれています。PS5は最高のゲーム機です。たくさんゲームをして、アニメを観て漫画を読んで、それから死にたい。まさにアイウォントイットザットウェイです。

宗教しかり国しかり、いにしえより続くものには人類にとって何かしらの真理があると竹谷は考えております。

結婚も同様に、人々が幸福に生きる上で大切なものに違いありません。これまで拝見してきた新郎新婦たちは、皆が皆一様に幸せそうでしたし、心から祝福したいと思いました。

結婚とは、社会を円滑に発展させるべく人類が構築したシステム即ち虚構のひとつでしかない、などと申すつもりはまったくありません。

ただ、西暦がカウントアップを続けに続けた現在、結婚は幸せ、という等号が成り立つひともいれば、そうでないひともいる。

そして後者は、結婚ではない何かに幸せを見出している。遅かれ早かれの結婚が当たり前だっただろう時代から、また少し変化しているように思います。

アニメ化も果たした漫画『神のみぞ知るセカイ』の作者・若木民喜先生による新作『結婚するって、本当ですか』は、”結婚以外”を大事にしたいふたりが、それを守るため婚姻関係を偽装する物語です。

偽装結婚から始まる”ひとり”のための物語

旅行代理店に勤める主人公・大原拓也(おおはら・たくや)は、内向的な性格で、誰かと過ごす時間より、訳あって飼っている愛猫「かま」と自宅で一緒にいる時を大切に思っています。竹谷は神の残酷性溢れる采配により猫アレルギーなので猫が飼えませんが、こういう”ひとり”を楽しいと思う大原にはものすごく共感を覚えます。

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『結婚するって、本当ですか』(若木民喜/小学館)1巻より引用

そんな中、ロシアは「シベリアのパリ」と呼ばれるイルクーツクへの海外支店進出が会社から発表され、誰が支店長として派遣となるかは未定であるものの、日本からの遠い距離を加味し、恐らく家庭のあるスタッフではなく独身者が優先されそうだという推測が社内を流れます。

大原と同じ企画部で働く本成寺莉香(ほんじょうじ・りか)も、大原と似ておとなしく無口で、あまり活発に他人と交流しようというタイプではありません。好きな時間は、自宅で地図を眺めている時です。竹谷には地図を楽しめる力がないのですが、”ひとり”で何かしらに没頭できる時間を愛しく思う気持ちには心から賛同します。

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『結婚するって、本当ですか』(若木民喜/小学館)1巻より引用

各々がひとりでいる時間を愛している中、独身が海外支店へ派遣されるやもという状況下で、ふたりは結婚という嘘をつくことで今の生活を守ろうとします。結構とんでもない発想ですが、やはり余波はあちらこちらに立ちあがり、ふたりはそれぞれ”ひとり”を止めないために力を合わせて奮闘します。

結婚から始まる物語では金田一蓮十郎先生の『ラララ』も竹谷は好きですが、こちらは実際に婚姻関係を結ぶのに対し、大原と本成寺は装うだけです。

皆さんも幾度かご経験があるかと思いますが、ひとつの嘘は、また別の嘘を呼び寄せます。訪れる数々の難局を乗り越え、大原と本成寺は無事に”ひとり”を貫くことができるのでしょうか。

また、本筋にまったく関係のないことを特筆しておくと、大原が愛猫かまを連れていく動物病院の獣医さんがものすごくかわいいです。なんというか、笑顔の破壊力もさることながら、絶妙に漂うプロフェッショナルな感じが脳天直撃します。

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『結婚するって、本当ですか』(若木民喜/小学館)2巻より引用

”ひとり”と”ふたり”と

多様性が叫ばれてから、だいぶ日も経ってきました。

仕事では、副業ではなく複業という観点も生まれ、住居では多拠点生活やホテル生活、食事ではヴィーガンやフレキシタリアン、恋愛(性別)ではLGBTやLGBTQIA+(ちなみにタイでは18種類の性別があると先日知って驚きました)と、それぞれの生き方を周囲が否定せず、違いを知っていこうと前を向く世間のアップデートを乾燥しがちな肌に感じています。

こうして書いているまさに今も、「この書き方は誰かの個性を踏みにじってはいないだろうか」と考えながら鍵盤を打っています。そうして推敲が増え、締切にまったく間に合わず編集部の皆さんへ謝罪を申す顛末と相なりました。

こと結婚に関しては、政治的・身分的な見方の濃い時代もありました。ゆえに、自由恋愛を求めた結果の駆け落ちや身分違いの恋は、その高いハードルのドラマ性から多くの物語を生み出しました。好きなひとと結婚できる幸せが普通となってからさらに月日が流れ、今度は結婚しないという選択、つまり未婚を選ぶ自由も幸せのひとつであると認識されてきているように感じます。自分にとっての普通を他人に無理くりねじ込むのは、ここにきてもはや呪詛のようです。

普通という言葉は、そろそろ死語にしていいのかもしれません。

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『結婚するって、本当ですか』(若木民喜/小学館)1巻より引用

大原と本成寺は、”ひとり”を守るために”ふたり”を演じていきます。普通の夫婦に見えるよう、細心の注意を払いながら。

それはきっと、大変な道だと思います。共通した目的はあっても、好きでもなく興味もないひとを相手に婚姻を偽り、同僚や家族を騙すのは、途轍もなく心労のかかることでしょう。

しかし、互いを知っていくにつれ、好きという気持ちや、興味が湧いたら、どうでしょうか。噓から出た実、という有力な古き言葉もあります。

”ひとり”のためでももちろんいいですが、大原と本成寺が自然と”ふたり”であることを大切に想うようになったら、それもまた素晴らしいなあと思いつつ、ふたりの続きを待っています。

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お読みくださりありがとうございました!

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11/22は「いい夫婦の日」ですが、どららかと言えば「いいにゃんにゃんの日」を推したいと思う締切日より五日後の深夜、東京都は府中にて。

▽株式会社ミリアッシュはイラスト制作会社です▽

WRITTEN by 竹谷 彰人
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