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ロシア好き作家・速水螺旋人が描く、ソ連視点の第二次世界大戦×大胆ファンタジー『靴ずれ戦線 ペレストロイカ』

【レビュアー/澤村晋作

1・北の視点から描かれた第二次世界大戦

みなさんは第二次世界大戦を描いた漫画を読んだことはあるでしょうか?

では、その舞台がロシアだったものに心当たりはありますか?

考えてみると、意外とないのですよね。ドイツはよく見かけますが。

そんなわけで、今回は珍しいロシア側の視点から描かれた作品、『靴ずれ戦線 ペレストロイカ』をご紹介。

私の記憶が確かなら、「TYPE-MOON展 Fate/stay night -15年の軌跡-で奈須きのこさんの本棚が再現された際、そこにも所蔵されていたはずです。

そう、業界人も大好きな漫画なのです。うふふ。

では、その具体的な魅力を説明していきましょう。

2・靴ずれが起こるくらいのリアルな描写

先ほどロシア視点と書きましたが、正確にはこの時代はソ連ですね。

そして、作者も別にロシアの方ではなく日本の方ですが、ソ連と言えばおなじみの、速水螺旋人先生です。

速水螺旋人先生は、TRPGのイラストレーターとしても著名な方ですので、絵を見たらピンと来る方も多いかもしれません。衣服、小物、銃器や風俗、あらゆる部分まで微細にこだわって、イラストと同時にびっしり書き込まれたコラムは、半端ではない知識と教養が伺えます。

本作も、ほかでは見ることができないロシアの妖怪などが多数登場します。

そう、第二次世界大戦を舞台にしていますが、本作はファンタジーなのです。

と言っても、戦記ものとしての骨子はしっかりとしており、地に足着いたファンタジーと言えます。

地に足着いているからこそ、靴ずれもするのです。(うまいこと言った)

3・実際のロシア正教にもつながる土着の聖人

そんな本作を象徴する主人公が、ナディアとワーシェンカです。

ナディアはNKVD(ざっくり言うと内務省)の女性です。NKVDは秘密警察や諜報を管轄していたりするので、軍人ではありませんが、現場で戦います。

そんなナディアが任務として魔女を徴発しにいくのですが、そこで出会ったのがワーシェンカです。魔女バーバ・ヤガーのもとにいた見習いの魔女です。

ナディアはワーシェンカを連れ、独ソ戦に向かっていきます。その道中、二人は様々な土着の存在と出会います。

家に棲む妖精:ドモヴォーイやキキーモラ
ロシアのサンタクロース:ジェド・マロース
熱中症をもたらす精霊:ポルードニツァ
ゴーゴリの小説に出てくる怪物:ヴィィ

ファンタジー好きならたまに聞いたことがあるような妖精から、まず聞かないようなものまで多種多様な妖精・妖怪・英雄などが目まぐるしく登場します。

中でも印象的なのが、聖カシヤーンパラスケーヴァ・ピャートニツァではないでしょうか。

いずれもロシアで信仰される聖人なのですが、その聖人という言葉のイメージからは、かなりかけ離れた存在です。

睨まれたものは全て死ぬといわれる邪眼を持ち、鎖に繋がれ守護天使に額を槌で打ち続けられており、四年に一度だけ解き放たれるという聖カシヤーン。

農耕や商業の守護聖人だが、金曜日に働くものを罰し、恋敵の呪殺の祈りも受けるパラスケーヴァ・ピャートニツァ。

キリスト教の聖人というのは、キリスト教が広まる中で土着の神々の信仰を取り込んでいった結果、多神教の神々を思わせる権能やエピソードを大なり小なり持っているものですが、特にロシアではそれが強く残っているのでしょう。

本作ではそれらが生き生きと描かれており、それゆえに他のファンタジー作品とは全く異なる空気感となっています。

地に足が着いているからこそ、土も着く。(うまいこと言った)

靴ずれとは土着と表裏一体なのです。

ぜひ、指が靴ずれするまで読んでみてほしい作品です。


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