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最終話目前の今、あらためて考える「進撃」と「北欧神話」との相関性『進撃の巨人』

【レビュアー/竹谷彰人

先日、東京マンガレビュアーズにて『鬼滅の刃』を神話として読まん、という暴挙に出たところ、ありがたいことに色々な方より「面白い」とご好評いただけました。

本当に嬉しいです。レビュアー冥利に尽きます。

その記事でも少し触れたように、世界に遍く神話や英雄譚は、なぜか似たようなストーリーラインを形成します。そういう無意識下で繋がった人類の感覚のようなものを、ユング心理学では「シンクロニシティ」と定義しています。

ユング心理学については、竹谷の大好きなゲーム「ペルソナ5」と併せて書いた記事もあるので、もしご興味ございましたらお読みください。

完全に別アカウントへ誘導しています。編集長の逆鱗に触れませんように。

神々のアタフタや英雄のドタバタは、古今東西老若男女の大好物で、口伝であったり書物になったりしながら、こんにちの我々まで受け継がれています。

そして人気のお話は世界中の人々に親しまれ、現在のコンテンツ業界においても、それらから完全に離れた上で形成され得るものは恐らくほぼないはずです。

さて、ここで思い切り話を逸らしますが、数か月前竹谷はこのような絶景を拝んでおりました。

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とあるダムの天端道路を歩いた際、そこから撮影した画像です。高所恐怖症の竹谷にとっては中々威力のある高度でした。ちなみに、下から見上げるとこうなります。

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何か銅像が立っています。正面から見てみましょう。

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漫画好きの方であれば先刻お察しかと存じますが、漫画『進撃の巨人』のメインキャラクターたちであるエレン・イェーガー、アルミン・アルレルト、そしてミカサ・アッカーマンの3名の像です。

両脇にいる青年ないしミドルエイジたちは、右から日田市地域おこし協力隊の日隈さん、デジタルコミックエージェンシーの株式会社ナンバーナイン・遠藤さん、そして竹谷です。

昨年の2020年11月7日(土)、竹谷は大分県日田市にある大山ダムにおりました。

何を隠そう日田は『進撃の巨人』の作者諌山創先生の出生の地で、地元を盛り上げるべく「進撃の日田」という取り組みを進めております。

その一環として立ち上がったのが銅像を建てるクラウドファンディングであり、この日は銅像の除幕式でした。大山ダムの壁に見立て、1話冒頭を再現しています。逆に言えば、天端からの視点は超大型巨人のそれとなります。

なぜ行ってきたのかと問われると、知人にお誘いいただいたことはもちろんとして、『進撃の巨人』が大好きだからです。

両手で数えられる以上は周回して読んでいます。しかしそうであるにもかかわらず、いまだに『進撃の巨人』についてレビューを書いたことがなかったと先日気づき、この度壊れかけのキーボードで臨んでいる次第です。

ちなみに、日田駅にはこのようなポスターも飾ってあります。

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帰り際、「こと平温泉 ゆめ山水」に連れて行っていただいたのですが、紅葉も相まって最高でした。アルミンの敬礼も納得です。

主目的に戻ります。『進撃の巨人』の面白さの理由はそれこそ多岐に渡りますが、大きな要因のひとつとして比類なき無二のストーリーテリングが挙げられると思います。話を追うごとに新事実が発覚していく情報開示の妙は、読むひとすべてに衝撃と興奮をもたらします。

そして、その最高なストーリーを可能にしているのが、バックボーンたる世界設計です。

今回のレビューでは、『進撃の巨人』の世界の根源である「北欧神話」をベースに、ああだこうだとこじつけ、もとい思考を巡らせていければと思います。よろしければ、どうか最後までお付き合いください。

※以降、最新話に到る範囲でネタバレをしていきます。あらかじめご承知置きの上、お読みくださいますようお願い致します。

北欧神話を意識せざるを得ないモチーフが並ぶ

まずは何より「壁」そのものです。『進撃の巨人』は、巨人が高壁から人類を見下ろすところから始まります。

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『進撃の巨人』(諌山創/講談社)1巻より引用

この壁という概念は、北欧神話の世界創造にも出てきます。

その始まりは後述しますが、神々は世界を構築していく際、境界を設けてその中を守るために壁を作りました。その壁の中はミッドガルドと呼ばれ、つまりは「中つ国」であり、人間の住む領域です。そして外側は、神々とはまた別の存在である巨人が住む国ヨトゥンヘイムとなりました。

ゲーム好きの方は、かの名作「ファイナルファンタジーVII」の都市ミッドガルのおかげで、ミッドガルドという言葉をどことなく身近に感じられるのではないでしょうか。

このように、人類が壁の中に住んでいて巨人が外にいる、というのは紛れもなく北欧神話のメソッドをすっぽり踏襲していると言えます。もちろん、そのまま神話のようには続きませんが。

他に、北欧神話と聞いて真っ先に思いつくのは、水曜日の英語ウェンズデー(Wednesday)の語源ともなった主神オーディン(Odin)ではないでしょうか。もしくはあくる日木曜日ことサーズデー(Thursday)の由来となったマーベル・スタジオの大人気アベンジャーズシリーズ『マイティ・ソー』のソー(Thor)、つまりトールも有名だと思います。

本作では、かれらをモチーフとしたような人間や存在を見かけることが竹谷にはできませんでした。ふたりとも既定かつ強大なイメージが強すぎるため、あの残酷な世界には似合わないのかもしれません。

しかし、モチーフとして多少反映されているやも、と気になる部分が数点ありましたため、そちらを書いていければと思います。

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『進撃の巨人』(諌山創/講談社)19巻より引用

物語中盤に出てくる火薬を用いた武器「雷槍」です。これまで立体機動装置の相棒といえば”よくしなる使い捨ての刃”でしたが、巨人の硬質化に対抗する術として新たに発明された武器です。その威力は凄まじいもので、終盤に到るまで主力として用いられています。

そして槍はオーディンを象徴する武器です。ゲーム好きは大体ご存知その名も「グングニル」と言います。本作品は北欧神話に着想を得た世界だとは思いますが、そこに存在する人々は北欧神話を知っているどころかむしろその只中にいるわけで、ゆえにグングニルと名付けられてはいないのでしょう。

また、オーディンと同様、トールも武器らしき概念で出てきます。

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『進撃の巨人』(諌山創/講談社)25巻より引用

「戦鎚の巨人」です。トールと言えばトールハンマーことミョルニルという鎚とセットで有名です。

神話上は稀代のトリックスターであるロキがハエに変身して、ミョルニルを錬成中だった鍛冶屋の邪魔をしたため柄が短い、というお話ですが、『進撃の巨人』に出てくる鎚はその物語のアンチを進むかのように柄が長いです。

ここまで硬質化を極められるのであれば、いっそ斬撃を目的とした剣や斧も作れるのではと思いますが、そこをあえて鎚、しかも”槌”でなく”鎚”の漢字を当てるあたり、トールを意識しているような気がして勝手に熱を覚えてしまいます。

オーディンやトールといった北欧神話を代表する神々の他には、大樹ユグドラシルも一度は聞いたことのある認知度の高い存在ではないでしょうか。

ユグドラシルは、ミッドガルドを始め、巨人の国ヨトゥンヘイムや死者の国ヘルなど、枝先に果実が実るように九つの世界を繋いでいます。

この九という数字は、娘や奴隷、夜の数など、北欧神話ではかなり頻出な数字なのですが、『進撃の巨人』でも九は重要な数として登場します

始祖、超大型、進撃、女型、獣、鎧、顎、車力、戦鎚。

お察しの通り、九つの巨人です。

ただの偶然に過ぎない、というご意見があるのはもっともなことと存じますが、竹谷は”座標”の描写を見て、上記のように考える浪漫を抑えきれなくなりました。

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『進撃の巨人』(諌山創/講談社)30巻より引用

もう、ものすごく、ユグドラシルっぽくないですか。

九つの巨人はもとより、すべての巨人たちの「道」が交わる座標と、九つの世界とすべての存在を繋げているユグドラシル。存在理由こそ違えど、近しい概念に口角を上げずにはおられません。

さて、座標という言葉を出しましたが、ここには始祖ユミルがいます。そしてこのユミルこそ、北欧神話には欠かせない重要な存在なのです。

鼻息を荒くしてユミルを追いかけたところ案の定長くなってしまったため、別見出しにて説明させてください。

「北欧神話」と『進撃の巨人』、それぞれのユミルという存在

本作で初めて”ユミル”という言葉が出てくるのは5巻の特別編「イルゼの手帳」です。これまで「喋れない」と思われていた巨人が言葉を発した瞬間でもあります。

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『進撃の巨人』(諌山創/講談社)5巻より引用

「ユミルの民」、「ユミル様」という情報が、読者に付与されます。

ここで、北欧神話に詳しい方は「あれ、もしかして北欧神話では?」と刮目するに違いありません。竹谷は皆目気づきませんでした。

北欧神話の世界創造は、ギンヌンガガップという何もない場所から始まります。それこそ、太陽や月もまだ存在しないころです。そこにやがて川ができ、泉ができ、蛇の毒が混ざり、霧雨となって降ります。

この水と毒と霧から生まれた最初の生命がユミル(ユミール)で、ユミルはすべての巨人の始祖となります。そしてまた別の存在として、牛のアウドムラが生まれます。この牛が霜を舐め続けて生まれたのがブリで、オーディンの祖父神にあたります。

つまり、ユミルを始めとした巨人たちと、ブリから続く神々は、まったく別個の存在であるということです。

その証拠に、オーディンは他の神々と組んでユミルを殺害し、その肉と骨で所謂”世界”を作りました。

以降、神々と巨人たちは対立しながらも婚姻を繰り返し、それが北欧神話の主軸となっていきます。

物語上で、ユミルという単語が大きく意味を持つのは9巻第37話「南西へ」でしょう。クリスタ・レンズ(のちヒストリア・レイス)とよく一緒にいる性格のやや荒そうな女性の名が、ユミルであると初めて読者に明かされます。

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『進撃の巨人』(諌山創/講談社)9巻より引用

なんだかユミルの謎が解けていきそうな雰囲気が醸成されるのですが、「この女性がユミルを称しているのには理由がありそう」という情報くらいで、結局「ユミルの民」と「ユミル様」に対する明確な説明はないまま話は続行します。

ユミルに関しての説明がされるのは、それから遥か遠い21巻第86話「あの日」においてです。エレンの父グリシャ・イェーガーの手記、つまり回想の中です。

エレンたちはエルディア人という種族であり、それは1820年前に存在した少女ユミル・フリッツを祖先に持つ、巨人の力を秘めた遺伝子の一族であると。ちなみに、先ほどの女性がどうしてユミルと名乗っていたかが明記されるのは、その次巻である22巻第89話「会議」においてです。

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『進撃の巨人』(諌山創/講談社)21巻より引用

ユミルはエルディア人、つまりエレンを含んだ壁中人類の始祖であり、「ユミルの民」とはつまりエレンたちを指していました(大陸に残ったエルディア人たちも含む)。

始祖ユミルの強大な巨人の力は、死後九つに分割されて承継を続け、現在エレンたちに宿っています。エルディア人たちの中には、ユミルそのものを神と信じる人々もいます。

それ即ち、エルディア人は「神の子」であると。

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しかし、こういった情報もまた、「そう言い伝えられている」という範疇を出ません。

エルディア人と敵対してきたマーレ人の観点では、ユミルは「大地の悪魔」と契約した「悪魔の使い」と見なされていますし、一部のエルディア人からすれば、ユミルは「神がもたらした奇跡」であり「神」そのものです。

我々の歴史と等しく、2000年という時間の効果で、事実に濃霧がかかるのは避けられない流れなのでしょう。

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『進撃の巨人』(諌山創/講談社)26巻より引用

発声したくなる名前でみんな大好きに違いないオニャンコポンというキャラクターは、ユミルに力を与えた存在を大地の悪魔でなく「神」と考えています。

ちなみに、オニャンコポンはアフリカ地方に伝わる天空神の名だそうです。もしかしたら、藤子・F・不二雄先生の名作『ポコニャン』も天空神なのかもしれません。

さてそれでは、ユミルの真実はどうだったのでしょうか。

結論から申せば、ユミルはただの少女であり奴隷でした。豚を逃した罪を着せられるも受容し、自由という名の私刑(リンチ)に処される折、誤って木の根にある泉へと落ちてしまいます。

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『進撃の巨人』(諌山創/講談社)30巻より引用

ここで邂逅した”何か”によって、ユミルは恐らく人類で初めてとなる巨人の力を得ました。

しかし、その力は戦争の道具として用いられます。

自由を得られず、奴隷のまま、13年もの時間を。

そして死してなお、主人の「我が巨人は永久に君臨し続ける」という言いつけを守らんと、巨人を作る”座標”にて気の遠くなるような悠久の間、巨人を作り続けています。

それにしても、このユミルが落ちた大樹もまた、どことなくユグドラシルと似ているように思います。

北欧神話の巨人の始祖ユミルは、オーディンたち神々に殺され”世界”の礎となりました。『進撃の巨人』の少女ユミルは、偶然巨人の力を持ったがために、死ぬも別次元にて存在し、砂上に楼閣を作るが如く巨人の世界を作り続けています。悪魔だと恐れられたり、神だと崇められたりしながら。

同じ巨人の始祖として見るに、北欧神話のユミルは世界創造という名分にて半ば必然的に殺されてしまいましたが、『進撃の巨人』のユミルは、どのようにしてその”大きな生”を終えるのでしょうか。

どうにか良き終わり方であってほしい。そう心から願っています。

おわりに、『進撃の巨人』における神の不在について

『進撃の巨人』と北欧神話、その双方に類似しそうな内容を点在的に書いて参りましたが、いかがでしたでしょうか。読んでくださった皆様に、何かしらの気づきや発見があれば嬉しい限りです。

最後に、まだ竹谷の中で考えてみたい内容があり、そちらを提示してレビューを終えられればと思います。本当はそこまで書き切りたかったのですが、さすがに長すぎて編集長にうなじを削がれそうだなと感じました。

さて、『進撃の巨人』に、神はいるのでしょうか。答えは恐らく”是”です。なぜなら、言葉として用いられているからです。

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『進撃の巨人』(諌山創/講談社)4巻より引用

サシャ・ブラウスがクリスタ(ヒストリア)に対して抱いたこの感情が、『進撃の巨人』では”神”の初出となります。”神”と表現できるということは、そのような存在が認識されている証左でしょう。

神が壁を作ったと信じるウォール教や、始祖の巨人を受け継いだ弟を見たロッド・レイス、獣の巨人が船を轟沈させている姿に感動を覚えたイェレナ等、かれらはそれぞれの存在に対して”神”を思っています。

また、グリシャ・イェーガーがレイス家を襲った際、かれらは礼拝堂で祈りを捧げていました。言い換えるなら、「捧げる対象が存在している」ということです。

また、「地鳴らし」が発動され逃げ惑う群衆が描かれた折、ヒィズル国の民と思われる人々は鳥居の近くで正座し、強く祈っています。

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『進撃の巨人』(諌山創/講談社)33巻より引用

鳥居は神域への入口なので、ヒィズル国にも何らかの神が存在していることは確かでしょう。

先に述べたユミルは、座標や記憶の継承によりただの少女だったことが判明しますが、その事実を知っているのは極めて少数なため、一部のエルディア人たちのようにユミルを神になぞらえて祈っても問題なさそうです。

しかし、ユミルの民ことエルディア人は蔑まれてきた種族であり、ユミルが世界的な信仰の対象になっている可能性は低いように思われます。ましてや、記憶が改竄されていた壁中人類はそもそもユミルという言葉さえ知りません。ウォール教も別に国教ではなさそうです。

それでもなお、”神”、そしてそのアンチ的存在である”悪魔”が表現としてが出てきます。どうですか、『進撃の巨人』における神々の姿がどんどん気になってはきませんか。

フワフワとした題目の提示で申し訳ありません。

このままでレビューを終えるのも気が引けるので、最後の最後に少しでも有益な情報として、大分県日田市で見つけた「進撃のオムライス」を貼って締めたいと思います。

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超大型巨人の熱で丁寧に焼いた玉子は、さぞかしフワフワしていそうです。

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お読みくださりありがとうございました!

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北欧神話を信仰していたヴァイキングは日本では「食べ放題」を意味する言葉として定着していますが、この始祖は半世紀以上前の帝国ホテルのサービス「インペリアルバイキング」からとのことです。そのまま和訳して「帝国武装船団」ってかっこよすぎるなあと思う空腹の午前二時。

▽株式会社ミリアッシュはイラスト制作会社です▽


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