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地球存亡の危機を救うのは子どもであるべき? 少年漫画の常識を問う『僕のヒーローアカデミア』

少年漫画は主に少年のためのものということで、当然ながら主人公も戦うのも、文字通り「少年」が中心になります。

ただ最近は少年を囲む人々、特に大人をきちんと描く作品も少なくありません。

私は堀越耕平先生の『僕のヒーローアカデミア』(以下、ヒロアカ)もその一つだと思います。子供が学び、成長する機会を維持しながら、社会の問題そのものには大人が向き合う姿が描かれます。

地球存亡の危機を救うのは子どもではない

ヒロアカは、世界総人口の約8割が超常能力としての”個性”を持つようになった世界が舞台です。個性を社会に役立つように使う人もいれば、犯罪に使う人もいるため、この世界では警察とともに個性を鍛え上げた「ヒーロー」が職業として成立しており、治安維持に貢献しています。

この物語の主人公は、そんな個性を持った子供をヒーローに育てる学校に通う子供たちです。

少年漫画なので物語の中心は当然子どもの成長と挫折、そしてさらなる成長が中心ですが、生徒の世代と同じぐらい学校の先生やプロのヒーローといった大人たちにも焦点が当たります。

物語の中では当然、社会を脅かす敵と戦うことになるのですが、その時も前に出るのは大人側。むしろ子どもたちは戦わないように教えられ、それに違反したときはペナルティーも待っています。(とはいえ、もちろん敵は子どもだからと見逃してくれるわけではないので、ほぼ確実に子どもたちは戦いに巻き込まれるか積極的に巻き込まれにいき、大人たちの頭を悩ませ親を悲しませるのですが)

私は、子どもの頃ロボットアニメの「絶対無敵ライジンオー」が好きだったのですが、大人になってから考えると「地球の存亡をかけた戦いがなぜ小学生に託されているのか」と考えるようになりました。もちろん子供向けのロボットアニメなので主役を子どもにするのは当然なのですが。

その点ヒロアカは、むしろ無茶をしようとする子どもたちにはきちんと先生が歯止めをかけますし、世間から批判されると校長先生をはじめ学校の大人たちがきちんと子供を守ります。人並外れた力をもってヒーローを目指す子どもたちにむしろルールに反して力を使うことが許されないことを教え込むなど、不思議な安心感があります。

私は子どもが戦う漫画が嫌いなわけではありません。ただ、「なぜ子どもが戦うのか」の理由があるほうが物語に入り込みやすいと思うようになりました。

なお、現在連載誌では敵との戦いが佳境を迎えていますが、最前線に立つのは当然のごとく大人のプロヒーローです。あくまで生徒たちは「プロになるための勉強・研修中である」という設定を崩していません。

幼少期に出会う大人によって、子どもの歩む道は大きく変わる

ヒロアカは、子どもと大人との出会いについても描きます。

主人公の緑谷出久(みどりや・いずく)はオールマイトという大人のヒーローと出会うことでヒーローを目指します。周りには競うライバルと、尊敬できる先生がいるというまさに光の道。

一方で、目下のところ主人公らの敵とされている死柄木弔(しがらき・とむら)は、自分が追い詰められていたときに出会った大人が巨悪の根源とされるオール・フォー・ワンだった。これにより、同じように力を求める出久とは正反対の、日陰の道を歩むことになります。

出久と弔はおそらく最終的に戦う相手として出会いそうなのですが、子どものころに出会う大人が違うだけでこんなにも人生が変わるのかと、物語の中ながら実感させられました。

女性キャラの個性にも広がる多様性

ヒロアカが面白いのは、パワーを振るうのは男女問わないところにあります。これは生徒はもちろん、大人にも共通します。

もちろん「個性を持った人たちが活躍する」という世界観が背景にありますが、例えば運動神経を例にとっても「女性が男性を上回ることがありうる」ことが自然に描かれています。

ヒロアカのようなバトル漫画では、女性キャラクターはこれまで純粋なパワーに頼らない力ーー例えば毒や精神系の攻撃力ーーを与えられることが多かった(なお、推理小説の世界では、女性の犯人は毒殺を選びやすいとされています)のですが、ヒロアカでは男女問わずパワー系の力を与えられています。

個人的には恐竜の力が生物的に女性のキャラクターに与えられたことは嬉しかったです。(もちろんこうしたことを作者本人が意識しているかどうかはわかりませんが)

大人も楽しめる奥深さを持つ世界的ヒット作

週刊少年ジャンプの連載作品の例にもれず、ヒロアカも海外人気は絶大です。

特に北米市場では、単行本の販売で圧倒的な勢いで、2019年には、ニューヨーク・タイムズが発表するグラフィックノベルのランキングに数少ない日本の漫画の翻訳本としてランクインし続けました。2018年にはアメリカの漫画賞、ハーヴェイ賞を受賞しています。

なぜここまで人気になったのかについては、翻訳やアニメの吹き替えを通じて英語圏に広がる下地ができていたことに加えて、ヒロアカにアメコミの影響を読み取る人が多かったことが大きいと思います。

ヒロアカの英語版の配信を手掛ける「Funimation」に掲載された記事では、ヒロアカに登場するどのキャラクターが過去のアメコミのキャラクターとの類似点を持つかを分析するものがありました。

最近の少年漫画はとにかく長編になりやすく、巻を重ねるとなかなか読み始めにくいのは事実です。ただ、もし「少年漫画に挑戦してみたい」と考えるのであれば、ヒロアカは選択肢の一つになると思います。

WRITTEN by bookish
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