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人間とチンパンジーのハーフ"ヒューマンジー"は、差別を打ち破るヒーローとなるか『ダーウィン事変』

【レビュアー/角野信彦

今年のアカデミー賞で「Judas and Black Messiah」が作品賞にノミネートされ、この映画で黒人の権利のためには暴力的な手段も辞さないというブラックパンサー党のリーダー、フレッド・ハンプトンを演じた、ダニエル・カルーヤが助演男優賞を獲得しました。

その他にも「マ・レイニーのブラックボトム」で「ブラックパンサー」でブレイクしたチャドウィック・ボーズマンが主演男優賞でノミネートされていたりして、近年のBlack Lives Matterの流れがアカデミー賞にも影響を与えていることが見て取れます。

今回紹介する『ダーウィン事変』の主人公チャーリーは、人間とチンパンジーの両方の遺伝子を持ち、交雑種にその両親の系統よりも優れた性質を持つというヘテローシス(雑種強勢)で、知能も運動能力も人間より優れています。

なので、スパイダーマンのようにいじめっ子からテロリストまで、優れた知能と運動能力で解決してしまうカタルシスのあるストーリーです。

ヘテローシス

『ダーウィン事変』(うめざわしゅん/講談社)より引用

一方で、人間とチンパンジーを両親に持つ「ヒューマンジー」であるチャーリーは、人間の社会での法的地位は「モノ」です。

これはアフリカから強制的にアメリカにつれてこられた黒人奴隷が人権を認められない存在だったことをなぞっているんだと思います。

法の真空地帯

『ダーウィン事変』(うめざわしゅん/講談社)より引用

リンカーンが南北戦争で勝利して、奴隷解放宣言をしても、1960年代にケネディ政権が公民権法を定めて人種差別を撤廃しようとしても、なかなか実社会での差別はなくなりませんでした。

現代のBLMの運動も、こうした社会のリベラル化の進展にともなって問題が大きく取り上げられるようになってきています。

こうした時代に、漫画という表現のなかで、人間とチンパンジーの両方の遺伝子を持つ主人公がヒーローとして活躍して、社会の差別を打ち破っていくという物語が出てくることが日本の漫画の力なのかなとびっくりしています。

映画「Joker」で白人の貧困層の不満を物語に取り入れて大ヒットを出したり、アカデミー作品賞もとった「シェイプ・オブ・ウォーター」で半魚人に実社会のマイノリティを仮託して、マイノリティに対する差別を物語にしたり、ストーリーはそのわかりやすさ、影響力から、創作者の考える「理想」のようなものを広く訴える手段にもなってきました。

マーティン・ルーサー・キング牧師がワシントン大行進にたどり着いたような感動的な場面が、ヒューマンジーのチャーリーにもやってくるのか?それとも途中で倒れてしまうのか?楽しみに見守りたいと思います。


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