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「ドラキュラ」のモデルとなった、恐怖で国を守った英雄の歴史大河ロマン『ヴラド・ドラクラ』

【レビュアー/竹谷彰人

ゾンビの文化的”祖先”

実は、格闘能力の高いゾンビがいます。

外出が自粛されてから早くも一年、漫画を始め自宅で楽しめるコンテンツの需要は日々高まっていますが、とりわけアニメやドラマ、そして映画をひたすらに供給してくれるものにみんな大好きNetflixがあります。

また、Netflixには、AmazonプライムビデオやHuluといった他の動画配信サービスと同様に、オリジナル作品というものが存在します。Netflixでしか観られない、独自で製作した映像郡です。

その中のひとつが、ご存知「アーミー・オブ・ザ・デッド」です。

1968年の「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」や1978年の「ゾンビ」以降、「オブ・ザ・デッド」を含めたゾンビ作品の川はみるみる水位を増し、今や大河と化してその支流も枚挙に暇がありません。

日本においても「オブ・ザ・デッド」の影響は強大で、一大ブームを引き起こした「カメラを止めるな!」は副題に「ONE CUT OF THE DEAD」と付いていますし、『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』という漫画やセガ社のゲーム「ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド」シリーズ、またその亜種には「ザ・タイピング・オブ・ザ・デッド」などがあります。表示された文字をタイピングするとゾンビを倒せるゲームです。それはもう面白いのです。

「オブ・ザ・デッド」の付いていないものでは、先日最新作「バイオハザード ヴィレッジ」が発売となったカプコン社のゲーム「バイオハザード」シリーズも、ゾンビコンテンツの中ではひときわ強い光を放っています。竹谷はもちろんクリアしました。がんばりました。ほんとうにこわかったです。

投稿に入り切らなかったスクリーンショットもご覧ください。この雰囲気。

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(ゲーム「バイオハザード ヴィレッジ」のプレイ画像)

有名海外ドラマシリーズの「ウォーキング・デッド」然り、ゾンビといえば、ゆっくりと気怠げに歩き、低い呻き声を立て、人間を食べに向かってくる顔色の良くない面々、というイメージがあるのではないでしょうか。

そのゾンビに斬新さを持たせるためか、「ゾンビ」のリメイクとなる2004年の「ドーン・オブ・ザ・デッド」において、ゾンビはデビルバットゴーストよろしく疾走するようになりました。

そして、先述の「アーミー・オブ・ザ・デッド」において、ついにゾンビは高次元の格闘能力と指揮統率の知能を会得するに至りました。そろそろ頭が良くなりすぎて「IoTピザ・オブ・ザ・デッド」とか作られそうです。

さて、ゾンビがここまで人気となった要因は、議論するにS.T.A.R.S.もとい星の数ほど意見はあれ、「噛まれちゃダメ」という”感染”をここでは大きな理由のひとつとして挙げたく思います。元々は使役される死者でありながら、キョンシーと比較しゾンビがはるかに巨大なコンテンツとなっていることからも、感染の有無は決して小さくない役割を果たしているのではないでしょうか。

噛まれたら死ぬのみならず、敵の仲間入りという緊張感。感染から発症、つまりゾンビ化までのリードタイム。

そういった法則から、ゾンビに掴まれた時の焦燥感や、親しい人物が噛まれた時の葛藤および決断が生まれ、ドラマにドラスティックなドラを響かせています。

しかし、”感染”は、ゾンビに元来備わっていた能力ではないのです。

その力を我が物としていたのは吸血鬼、つまりヴァンパイアでした。厳密に言えば、ただ噛むのではなく、血を吸う必要がありましたが。

ゾンビは吸血鬼オリジナルのアビリティである感染を借りることで、「ウマ娘」風に書けば吸血鬼の因子を継承したことで、ぞんぴょい伝説つまり人々を惹きつけてやまない強靭な面白さを得たと言えます。

そして吸血鬼は、19世紀の英国小説「吸血鬼ドラキュラ」において、その確固たる地位を築きました。

「吸血鬼ドラキュラ」はドラキュラ公こと、ワラキア公ヴラド3世をモデルに取り入れて書かれたフィクションです。

では、ノンフィクショナルなヴラドは、どのような人物だったのか。

今回ご紹介差し上げる「ヴラド・ドラクラ」は、後世に吸血鬼と見なされる救国の英雄ヴラドの、烈しい人生を綴った漫画です。

大国に抗うため、”串刺し公”と呼ばれるに至った人間

「のまのまイェイ」

日本でスマッシュヒットした「恋のマイアヒ(Dragostea Din Tei)」から遡ること五百有余年、ルーマニアは、それこそRomania(ローマ人の地)という名もまだなくワラキアと称していた時代、強国に接近されていました。

世界三大料理としても知られる現トルコ共和国こと、オスマン帝国です。

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『ヴラド・ドラクラ』(大窪晶与/KADOKAWA)1巻より引用

首元に剣先を突きつけられ「貢げ」とオスマン帝国からスーパー無体をはたらかれている真っ最中に、君主となったのがヴラド3世です。応ずるには法外な値段、応ぜずば苦悶の蹂躙、という過酷極まりない状況下でも、かれは諦めることなく辣腕を振るいます。

その矛先となったのは、対外はもちろん、対内もでした。

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『ヴラド・ドラクラ』(大窪晶与/KADOKAWA)1巻より引用

のっぴきならない事態にもかかわらず、国内はまとまる気配がありません。”私”欲にまみれ”私”腹を肥やす、”公”とは真逆の地主貴族たちが富力を蓄え、跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)していました。

詮なきifではありますが、耳目聡明なヴラドは、本来であれば議論や対話を通じて国を治めていったのでしょう。

しかし、眼前に迫るオスマン帝国の外圧は、ヴラドにソフトランディングを許してくれませんでした。

「何も捨てることができない人には、何も変えることはできないだろう」と『進撃の巨人』でアルミンが言っている通り、オスマン帝国という化け物をも凌ぐ必要に迫られた以上、人間性をも捨て去る必要があったのです。

君主の務めを果たすべく、ヴラドが採った方法。

そのひとつは、恐怖でした。

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『ヴラド・ドラクラ』(大窪晶与/KADOKAWA)2巻より引用

見る者すべてに圧倒的な恐怖を植え付ける串刺刑は、国内はおろかオスマン帝国さえも震え上がらせます。

しかし帝国は、簡単には退かないからこそ帝国です。ワラキアを降さんと、オスマン帝国は甚だしい武威と権謀術数を用いてきます。

そんな大国を相手に、どう挑み、戦い抜くのか。

『ヴラド・ドラクラ』は、”吸血鬼”ではなく、国を守り救った英雄を丁寧に描いています。

ヴラド3世が”吸血鬼”として遺したもの

繰り返しますが、『吸血鬼ドラキュラ』は19世紀に出た英国小説です。

当初『ヴァンパイア』というタイトルだったものを、ヴラド3世に刺激を受けて変えた、と聞いたことがあります。かれの実際の要素を巧みに練り混ぜ、現実味を帯びたこの小説は大ヒットとなり、世界中が吸血鬼を愛するようになります。ちなみにドラキュラ(ドラクラ)は「父ドラクルの子」という意味で、さらに掘り下げるなら「竜の子」を指します。

その吸血鬼の力を”感染”へと昇華した「オブ・ザ・デッド」含めたゾンビ作品群を観賞するに際し、我々はゾンビに内包されている吸血鬼の力に、自ずと惚れています。

最近6部のアニメ化が発表された『ジョジョの奇妙な冒険』のディオ・ブランドーも、世界を席巻した『鬼滅の刃』の鬼舞辻無惨も、吸血鬼性の非常に高いキャラクターです。超常的な力を持った吸血鬼とその眷属を相手取り、非力な人間が死闘を繰り広げる展開は、どうやらみんな大好物のようです。

しかし、”吸血鬼”のイメージだけが先行してしまったヴラド3世が守った国、ルーマニアでは、色が異なります。

語弊を恐れずに言えば、ヴラド3世をある種の”化け物”として書いているという点からか、小説「吸血鬼ドラキュラ」は1990年まで発禁状態でした。さらには、2001年「ドラキュラ・パーク」の建設計画をルーマニアの観光大臣が発表するも非難の嵐に見舞われ、2006年その計画は中止となっています。

「パーク」は、メインとなる「ドラキュラ城」を中心に、「疑似拷問部屋」や「牙磨きワークショップ」といったアトラクション、「吸血鬼学研究所」なる施設に加え、ゴルフコースや動物園、「血のプリン」や「脳みそフライ」の食べられるレストラン、ホテル等を備えたディズニーランド風の遊園地として計画された。(『ルーマニアを知るための60章』明石書店より)

何が良いかはひとによる、とは正しくその通りだと思います。

ゾンビや吸血鬼という現在のエンタメに不可欠な存在、その始祖と表現できるヴラドを、我々含めた他国は「ルーマニアときたら吸血鬼ドラキュラ」と言い、その居城を「聖地巡礼」と興奮しても、ルーマニアの人々からすれば、騒々しく吸血鬼扱いされている状況は芳しくないのかもしれません。もちろん、ルーマニアに詳しい知人がいないため、推察の域を出ませんが。

ヴラドは、血を吸わない、オスマン帝国に挑んだ人間。その事実を、レビューの締めとしてもう一度お伝えさせてください。

最後に、2021年の今年は、ルーマニアとの外交樹立100周年だそうです。

吸血鬼というフィクションを全幅に楽しむのも最高ですが、『ヴラド・ドラクラ』を通して実際のヴラド3世の功績を知っておくのも、また良きことではないでしょうか。

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『にゃんちゃん・オブ・ザ・デッド』とかどうでしょうか。噛まれたら猫耳になってかわいくなる、という幸福感溢れるゾンビ映画です。みんな噛まれに行きます。

▽ミリアッシュはイラスト・ゲームイラストの制作会社です▽


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