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子作りに悩む漫画家夫婦が体験した不妊治療の現実と、誰も教えてくれない里親の話『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』

※本記事は、マンガレビューサイト「マンガHONZ」、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)

【レビュアー/タクヤコロク

古泉智浩という漫画家がいる。

青春☆金属バット』や『ライフ・イズ・デッド』、『ワイルド・ナイツ』といった短編漫画を書かれている方で、うだつのあがらない高校生やだらしない日々を送る若者たちの鬱屈した感情を、暴力や性的な描写で爆発させる漫画家だ。

僕はこの人の童貞感のある妄想が好きで、いつかマンガHONZで紹介したいと思っていた。

最近、そんな古泉さんの新作が出たのだが、これまでのダウナー系漫画からは想像できないような内容に少々驚いてしまった。

それが、今回紹介する『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』という本だ。

遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。マンガHONZレビュアーのころくです。

2016年最初のレビューは、漫画というよりコミックエッセイ。

もっというとエッセイ部分がかなりを占めるため「本」という紹介になったが、「子どもが欲しいけどできない」と悩んでいるアラサー世代の人たちは、きっと読んで損はないと思う。

不妊治療に6年で◯◯◯万円。その結果は……?

本作は、古泉さんと今の奥さんが不妊治療を経て自分たちで子どもを産むことを断念し、里親として子どもを受け入れる選択をした時の体験を綴ったコミックエッセイだ。

なので、冒頭に述べたような童貞感とか、鬱屈した主人公のほとばしる性春を描いたような本ではない。むしろ、全く違う。

古泉さんご夫婦は、およそ6年間の不妊治療に600万円を費やしたが、子宝に恵まれることはなかった。タイミング法、人工授精、体外受精、顕微授精、伊勢神宮での神頼み……。ありとあらゆる不妊治療をやってみたが、どれもダメ。

古泉さんは、本書の中でその時の経験をこう語る。

欲しがれば欲しがるほど手に入らないものが子ども、いらない時、欲しがっていない時にできるのが子ども、そんな印象があります。

妻は不妊治療のために子宝にご利益がある神社に通ったり、奇祭に足を運んで巨大な男性器のような形の神輿に乗って、その撮影された動画がYouTubeに投稿されたりしていました。鍼灸治療にも熱心に通いました。保険適用外であるため非常に高額でした。

欲しがるほどできないのが子どもだと僕は考えていたので、子宝祈願など嫌だったのですが、伊勢神宮に家族で旅行した時は、日本一の神社、最大級のパワースポットならとつい期待しました。

しかし、なんのご利益もなく直後の不妊治療は失敗し、伊勢神宮でダメならもう神頼みは意味がないとしか思えませんでした。
『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』(古泉智浩/イースト・プレス)より引用

よくあるCMの定型句ではないが、あくまで古泉さんご夫婦の体験であって効果には個人差はあると思う。しかし、それでもありとあらゆる手をつくして子どもを欲しても恵まれないのもまた現実だ。古泉さんは続けて言う。

最近は、不妊治療をするなら1年とか100万円とか枠を決めてするようにすすめています。また、里親研修を同時に受けるのもいいと思います。
『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』(古泉智浩/イースト・プレス)より引用

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『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』(古泉智浩/イースト・プレス)より引用

かくして自分たちで子作りをすることを諦めた古泉さんは、里親になることを決意したのだ。

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『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』(古泉智浩/イースト・プレス)より引用

30年の人生ではじめて真剣に里親について考えてみた

里親には、養育里親、専門里親、親族里親の3種類あるらしい。

平成25年度時点での登録里親数は、ざっくりと1万3000人くらいいて、だいたい5000人位の委託児童がいる。(「厚生労働省・里親制度などについて」より)

僕は本書を読むまで、里親といえば犬や猫といった動物の里親のことしか考えていなかった。

妻とも、動物の里親になりたいね、という話はしていた。しかし、赤ちゃんの里親のことについては考えたこともなかった。何というか、自然と子どもは産むもんだと思っていたから。

「30歳を過ぎたら子どもができにくくなる」とはよく言われることで、僕の周りでも耳にすることは少なくない。

それでも、こうした「子どもができにくい」という人たちから「里親になる」というような話を聞いたことは一度もない。里親になるということ自体が一般的ではないのだろう。

『うちの子になりなよ』には、里親登録をするにも制限(※業者や地域によってさまざまらしい)があることや、里親の種類があること、そして里親研修があることなど、古泉さんが実体験に基づいてさまざまな情報が書かれていて、僕にとってはそのほとんどが知らないことだった。

読むだけでも、相当大変な手続きが必要なことが分かるが、子どもを正しく育てる環境と能力を測るためのステップとしては当然のようにも思う。

こんな調子で、少しの毒を織り交ぜながらも、淡々と里親になるまでのプロセスが書かれている。

そして、その手順を経て出会った赤ちゃんが、「自分たちの子」となるのだ。

当然ながら溺愛している古泉さん夫婦の様子も漫画で描かれていて、なんとも微笑ましい。

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『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』(古泉智浩/イースト・プレス)より引用

僕は、どうしても自分の子どもが欲しい。何様でもないのだけれど、僕の父や祖父、そしてはるか昔の先祖から受け継いできたこの遺伝子を残したい。

でも、本当にできなかった時、大人しく諦めるのか、それでも子どもが欲しいのか。

いたずらに不安を抱かせるようなことだけは避けたいが、もしそんな時が来るならば、『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』を思い出して里親のことを真剣に考えてみたいと思う。


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