「はじめまして」で即結婚は、異常? 凝り固まった常識を解きほぐすあたたかい物語『ラララ』
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「はじめまして」で即結婚は、異常? 凝り固まった常識を解きほぐすあたたかい物語『ラララ』

【レビュアー/竹谷彰人

ただの小さな私事ですが、先日36歳になりました。ゲーム時間の多い生涯を生きてきました。

他責にすると、竹谷の生まれた1985年は、そこから35年ものあいだ最多販売本数記録を保持したゲームソフト「スーパーマリオブラザーズ」が発売されたゲーム史に残る黎明期で、そして1990年には「スーパーファミコン」が満を持して登場するなど、世はまさに大ゲーム時代だったからです。

この時期は、現在も根強い人気を誇るゲームシリーズが多く出胎し、直近ではRPGの金字塔「ドラゴンクエスト」が35周年を迎えました。ドラクエで一足早く”スライム”に触れていたため、小学校の理科実験で作ったスライムを見て「これはスライムではない」と肩を落とした記憶がよみがえります。

くだらない自慢をひとつ披露しますと、I1 から XI11 までのすべてのドラクエを竹谷はプレイしています。好きなボスは V5 のブオーンで、好きなトラウマシーンは IV4 のロザリー関連で、好きなカジノは VI6 で、好きなキャラクターは XI11 のベロニカで、好きな種族は X10 のプクリポです。

その「ドラゴンクエストX」を題材にした漫画について、以前レビューを書かせていただいています。

金田一蓮十郎先生の『ゆうべはお楽しみでしたね』です。宣伝です。白状しますと、”ゆうたの”を読みプクリポのかわいさに打ちのめされ、ドラクエXを始めたという経緯です。それほどまでに、ドラクエ愛に溢れた素敵な漫画です。宣伝です。

”ゆうたの”では、「ドラゴンクエスト X」を通じて知り合うも、互いの素性をまったく知らないまま男女がルームシェア、やや恋愛的に言い換えるなら同棲を始めます。

好意を抱き、告白し、付き合い、気心が知れて、一緒に住む、という一般的に”普通”と言われそうな階段を、凄まじい勢いで飛び越しています。

では、恋愛のスタート地点が、同棲のさらに先だったらどうでしょうか。

今回オススメする漫画は、「はじめまして」の男女が結婚するところから始まります。

このレビューを書いている2021年9月25日に、まさに最終巻が発売となった、同じく金田一蓮十郎先生による漫画『ラララ』です。

”普通”ではない恋愛、夫婦、家族

桐島士朗きりしましろうは、勤めていた会社で自主退職リストラに遭い、恋人にフラれて元気なくバーで腐っていたところ、近くで飲んでいた石村亜衣いしむらあいに話しかけられます。

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『ラララ』(金田一蓮十郎/スクウェア・エニックス)1巻より引用

桐島は芳醇な色香の漂う石村相手に高揚し、色々と管を巻いてあれよあれよと酩酊泥酔し、その日のうちに婚姻届を出し、晴れてふたりは仲睦まじくない新郎新婦となります。桐島・石村ご夫婦、本当におめでとうございます。皆様どうかお立ちの上、ふたりの新たな門出を拍手でお祝いください。

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『ドラえもん』(藤子・F・不二雄/小学館)6巻より引用

そういうものが当然の世界、というSFすこしふしぎでもなく、仕出かしたことの重さに、桐島は炎柱よろしく「よもやよもやだ」と狼狽を隠せません。一方、石村はあっけらかんとした有様で、ふたりの”変な”夫婦生活は幕を開けます。

また、婚姻は世界中で古代から継続している強い制度・法律であり、結婚は当事者のふたりだけでなく、否が応でもそれぞれの家族も結びつけるほど大きな契約です。

つい先ほどまで赤の他人だったふたりは、ふたりそれぞれの家族と向き合っていくことになります。

「そんな夫婦のかたち、ありえない」

冗談であれ真剣であれ、そうリアクションを取るふたりの周囲に、最初は竹谷も首を縦に振っていました。

そう、最初は。

桐島の優しさや、石村のかっこよさに、徐々に漫画そのものの読み方が変わっていきます。この漫画は、ただ結婚や夫婦、家族だけをテーマにした物語ではない。そんな思いが、沸々と浮かんできます。

そして、読み進めていくうち、こう気付くに到りました。

これまで自分は、”普通”を勝手に定義して、その範囲から漏れるものを”異常”と決めつけ、軽んじていた、と。

常識がほぐされていくあたたかさ

竹谷の両親は、アパレルな職場で出会い、逢瀬を重ね、結婚しました。

竹谷の初恋相手はウータイ出身のユフィ・キサラギという活発な女の子で、訳あって遠距離の片思いだったのですが成就しませんでした。

高校時代、クラスメートの中井くんは、諦めずに4回告白し、結果意中の相手と付き合えることになりました。反対に、同じくクラスメートの松村くんは、テニス部の女子に片っ端から連続で告白し、見事振られたばかりか学校の女子全体から距離を置かれました。

強引な統計ですが、ひとの数だけ、ひとの恋愛があります。もう少し抽象的に申せば、数え切れないほど、”普通”のかたちはある、と言えます。

結婚から始まるふたりがいても、マイノリティだとは思いますが、普通のことなのです。

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『ラララ』(金田一蓮十郎/スクウェア・エニックス)1巻より引用

まわりから”変”と見られてしまう桐島石村夫婦は、言わずもがなこの物語の主人公です。我々読者は、ふたりを知るにつれ、共感し、応援し、ふたりの幸せを願うようになります。

そして、その時やわらかく心に捺されているものは、凝り固まった常識がほどけた、心地よいあたたかさです。

「結婚や家族はこうあるべき。人生はああでなければならない」

そう自ら決め込んでいた冷たく硬い”普通”が氷解し、もっと身近で些細な物事に視線が向き、なんだか良いと感じて気分が上がる。軽くなった心身は、自然に「ラララ」と歌い出したくなる。これは、さすがに詩的が過ぎますでしょうか。

ひとつ確実なのは、肉体と同様、心のコリにも、あたたかさが効くということです。

圧倒的な情報と選択肢の量に忙殺され、焦燥感と義務感に攻められている現代人にこそ、『ラララ』は読んでほしい漫画です。

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お読みくださりありがとうございました!

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信じられないくらい寝違えてここ数日挙動がロボットダンスのようにギシギシしていたのですが、百裂張り手よろしく温湿布を首や肩へ貼りに貼ったところ、無事回復して人並みに踊れるくらいになりました。

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