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これを読めば、DVを受けた時の戦い方が全部分かる『ダメ彼を訴えます!! ~殴られたので裁判しました~』

暴力の地雷はここかしこに

身体的、精神的暴力は許されるものではありません。しかし、現実の世界ではここかしこに暴力装置が地雷のように埋め込まれており、いつ自分が被害者になるのか見当もつきません。

これまでの人生で暴力の被害者にも、加害者にもなったことがないという人は、むしろ運がよかっただけ。幸せな生活がいつどこで一変するかは誰にもわかりません。そうならないように努力することは大切なことですが、相手があってのことなので、自分の努力だけでできることには限界があります。

テレビやニュースで、パートナーに執拗な暴力を受け、命の危険にさらされ逃げてきた女性が、「ずっと蹴られ、殴られ続けたのは自分の問題だと思っていた(洗脳、マインドコントロールで思わされていた)」という話が出てきます。

暴力をふるった相手ではなく、パートナーに暴力をふるわせてしまった自分が悪い、という思考ですね。パートナーのことを大切に想っているからこそ、相手の責任を自分の責任へとすり替えてしまう。本人がそれに無自覚になってしまうのが恐ろしいです。

法治国家・日本で暴力と戦う方法

誰もが暴力の被害者になり得る環境のなかで、もし、我が身にそれが起こったとします。心や身体の痛みと、混乱や戸惑いのなか、冷静になることは難しいでしょう。冷静さを欠いた状態では、あきらかに非のある相手であってもうまく戦えません。

ダメ彼を訴えます!! ~殴られたので裁判しました~』は、いままさに暴力に晒されている方にも、私を含むいつか暴力を受けるかもしれない人にも、法治国家における戦い方を教えてくれます。

日本社会は犯罪被害者に対する支援制度が十分整った国でしょうか。本当に整っているのであればとても心強いですが、そもそも被害者になった時の対処法が国民に周知されてないとしたら、やはりそれは不十分だと言えます。

法律を使い、裁判を通して戦いたい、戦わなければならない。しかし、手元資金には限りがある時、被害者の相談を受けてくれる場所をご存知でしょうか。

それは日本司法支援センター、通称「法テラス」です。法テラスとは、国が設立した法的トラブル解決の総合案内所です。法テラスでは、弁護士費用等を援助する機会として、同じ案件であれば3回まで無料で利用することができます(条件あり)。

「お金がなくて弁護士に相談できない」と思わずに、まずは相談してみるということが重要です。著者の二星星さんは、会社の後輩からの猛アタックで結婚を前提とした同棲生活に入ります。一緒に住む前は優しかったパートナーが、一つ屋根の下で暮らし始めた途端に、優しさも配慮も、言ってたこともやってたことも豹変し、最後は暴力に発展。そして二星星さんは泣き寝入りせずに戦うことを選択しました。

まさに被害当事者として、どのように戦い抜いたのか。その実体験を元に、私たちに法治国家での戦い方を伝えてくれるのが本作です

記憶も、記録もなんでも絶対に残しておく

きっちり戦っていくために、何よりも重要なのは記憶だけでなく、記録もすべて残しておくこと。裁判に勝つために、記録は捨てたり削除したりしてはいけません。パニックになり、感情に押しつぶされそうになっても、相手との思い出の品、一緒に笑う写真も、映像や音声データも、SNSのやり取りも、完璧に保存しておくべきです。

データの消失が怖ければ、クラウド上にバックアップを取っておくこと。楽しい時期には考えたくもないことですが、いつか地雷を踏んでしまった時、残しておいた物品やデータが戦う武器(証拠)となります。

著者の裁判の焦点のひとつに「結婚の意志」がありますが、婚約指輪もなければ、結納もしていない。プロポーズの言葉も記録として残っていないことから、結婚の意志があったことを立証するのが困難でした。

それでも、それを暗に示す言葉を、残されたデータから引っ張り出すなどして証拠を集めていきました。言った言わないは当事者同士しかわかりませんが、一方が正しくても、もう一方が否定すれば、それが明らかな嘘であっても、第三者にはどちらが正しいのか判断できません。

楽しい記憶はほとんど役に立たず、証拠として役に立つ記録こそが、戦うための武器となります。何かあったときのことなど考えたくない。そういうポジティブな感情のときにこそ、冷静に何かあったときのために物品を、情報やデータをしっかり残しておきましょう。いいじゃないですか、何もなければ幸せの品々になるわけですから。

支えてくれる仲間が、戦い続けるエネルギーとなる

そもそも暴力を受け、心身にダメージを負っているにもかかわらず、裁判をするとなれば、経済的、時間的、精神的に、二重三重の被害を受けかねません。一生かかわりたくない相手と接見することは苦痛以外のなにものでもありません。

実際に起こったこと、言ったこと、やったことを、全部否定される。起こっていない、言ってない、やってない。時には、そのような発言をすることこそ人としてどうなの?と人格否定を受けることすらあるかもしれません。

かつて愛した人間に、です。

数ヶ月から何年もかけてこのような応答が繰り返されるのは、ダメージの蓄積です。普通の人であれば耐えられないようにも思えます。辛い状況だからこそ、戦い方を知るだけでは十分ではありません(戦い方を知らないよりはマシですが)。

ここは戦い続けるエネルギーを持っておかなければなりません。ちなみに、悲しみや怒りの感情は戦い続けるエネルギーとしては不安定に思えます。瞬間的には力の源泉になっても、負の感情を持ち続けることは、一定のエネルギーを使う行為だからです。燃費が悪い。

では、何がエネルギーになるのか。それは支えてくれる人たちです。二星星さんの戦いを支えたのは、弁護士とお母さん、そして中学の部活の里見先輩です。その時々で折れそうになる著者を励まし、感情的になる著者に冷静さを取り戻すきっかけを与えます。

たったひとりで、被害者として裁判を戦い抜くのは容易なことではありません。だからこそ、身近な人たちを頼り、支えてもらえる仲間が大切です。仲間はいきなりできませんので、日々の生活のなかで人を大切に、関係性を育んでおきたいものです。

人が人を裁くことは本当に難しい。

著者に暴力をふるい、裁判でも非を認めない男性(その親も)の振る舞いは、漫画の世界であっても腹立たしいことこの上ないです。表情の描き方が豊かであるからこそ、こういう人間が相手なら、生涯出会うことのない別々の世界で生きていきたいとすら思います。

しかし、泣き寝入りではなく、戦うことを選択した以上、勝率を高めるためにできることは何でもやっておきたい。不安でも、苦しくても。

著者の裁判を支えた功労者のひとり里見先輩は、弁護士の秘書をされています。その経験からの助言が身も蓋もない話でした・・・。

二星星さん
「いい弁護士選びのコツってありますか?」 

里見先輩
「そうねぇ・・・ひとつあげるとしたら・・・運・・・ね。”裁判は博打”っていう弁護士も多いわ。弁護士選びもそのひとつ。自分の弁護士、相手の弁護士、裁判官によって運命は変わるの」


※『ダメ彼を訴えます!! ~殴られたので裁判しました~』(著者/版元)より引用

人が人を裁くにあたっては、誰と組むか。相手が誰か。判断をくだすのは誰か。それによって結果が大きく変わってしまうからこそ、現実に運次第になってしまうのでしょう。

本作には、刑事裁判と民事裁判の違いや、裁判の流れ、そこで使われる言葉の説明などが、体系的にわかりやすく説明されています。もし、他者から傷つけられたとき、私たちはすぐに冷静になれるわけではありません。だからこそ、戦い方の基礎知識だけでも、いま暴力のない幸せな生活のなかで獲得しておくべきだと思います

そのための第一歩がまさに『ダメ彼を訴えます!! ~殴られたので裁判しました~』を読むことに他なりません。

WRITTEN by 工藤 啓
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