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春画がテーマの江戸時代版『バクマン。』に見るものづくりの本質『写楽心中 少女の春画は江戸に咲く』


結婚した直後、「ちょっと毒舌があまくなったね。」と言われたことがある。

その頃、毎年出していた週めくりカレンダーの文章(毎週ちょっとひねくれた言葉やハッとする一言を書くというものだった)も、「しあわせが滲み出ちゃってる。」などと言われたりして、ちょっと焦った。

ものづくりって難しい。愛を知らなければ愛については書けないが、満たされすぎてもまた書けなくなる。たしかに、それまではスラスラと浮かんでいた毒のあるフレーズが、捻り出さないと出なくなっていた。

(ちなみにその後半年くらいしたら普通に書けるようになった。一時的な満腹感だったけど。笑)

満たされすぎるとものづくりはできない?そんなテーマが、この『写楽心中 少女の春画は江戸に咲く』(2020年7月現在、2巻まで発売)には描かれている。

春画をテーマにした江戸時代版『バクマン。』

物語は、伝説の絵師・写楽(しゃらく)の娘・たまきが、ある男に吉原で拾われ、絵師として生きていくという成長ストーリーだ。

葛飾北斎(かつしか・ほくさい)、渓斎英泉(けいさい・えいせん)、葛飾応為(かつしか・おうい)といった実在の絵師たちのエピソードもふんだんに出てきて、2巻読んだだけでもちょっと当時の絵師に詳しい人になったような気分になれる。それだけでも、読む価値はあるかもしれない。

そのたまきを拾ったある男とは、江戸時代の版元である二代目・蔦屋重三郎(つたや・じゅうざぶろう)。

ちなみに、初代・蔦屋重三郎は実在の人物で、写楽を育てた名プロデューサーだったらしく、あのTSUTAYAは、この人物にあやかって名付けた社名なんだとか。

つまりこれは、『響~小説家になる方法~』や『バクマン。』『重版出来!』のような、江戸時代版・版元と作家のものづくりストーリーという風にも読めるのだが、独特なのは浮世絵の中でも性風俗を描く「枕絵(いわゆる春画)」というテーマである。

そう、この漫画はエロを抜きには語れないのだ。

エロと言ってもおっぱいバーンみたいな直接的なエロではなく、風情あるエロ。すばらしい枕絵を描くために、ストイックにエロを追求するストーリーなのである。そして冷酷な蔦屋重三郎と、まだ少女でありながら時折情念を覗かせるたまき、たまきに恋心を寄せる刷師・由太郎の関係が、またエロい。

心が満たされたら創作はできない?

ところで、愛を知らなければ愛を書けないと冒頭に書いたが、エロい作品を描くには、エロを知らないといけないのか。いや、知らないからこそ描けるエロもある。(そういえば抑圧されたヘンタイの方がよりヘンタイ度が高いと、山田五郎さんもおっしゃっていた。)むしろエロに渇き焦がれるからこそ、エロを描けるんじゃないのか。というテーマが、2巻の渓斎英泉のエピソードには描かれている。

「こんなに満たされちまったら これからどう枕絵を描きゃいいんだ」

というセリフを読んだときは、ものづくりの本質かもしれないと、思わず唸った。

日本人のルーツにある性への寛容さ

実際、枕絵とはアートなのか、エロなのか。その両方をきっちり兼ね備えていたことも、この漫画を読むとわかってくる。

絵を見ながら自慰をする主婦の姿があると思えば、職人たちが構図や彫りの技術について語り合うシーンもある。この枕絵を子孫繁栄のお守りとして嫁入り道具に持たせる文化もあったというから、江戸という時代の性に対するおおらかさが伝わってくる。

そう考えると、不倫くらいで芸人が干されてしまう、いまの日本人のルーツに、こんな時代があったことは不思議ではある。屋根の上で窓枠越しにセックスする間夫と太夫がいるんだから、トイレでするくらいどうってことないじゃないという気もしなくもない。

そしてまた絵がいいんだ。

正統派少女マンガ風の絵でありながら浮世絵の世界観を見事に描いていて、その時代にトリップしたような没入感が味わえる。絵を楽しみ、ラブストーリーに萌え、風情あるエロを堪能しながら、ものづくりについて考察し、結果、日本文化にちょっと詳しくなれる。なかなかお買い得な漫画じゃないでしょうか。

WRITTEN by こやま淳子
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