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情報×情報の知的奔流!ゆるくもキレキレな思考を楽しむオトナの近未来漫画『宙に参る』

世界三大宗教の一つでもある『聖書』に圧倒的な差をつけ、英国人が「読んだふり」をする本ランキングの堂々第一位に『1984年(一九八四年)』があります。

ジョージ・オーウェルによって1949年に書かれたこの小説は、後世の様々な作品に影響を与え続けています。半世紀以上たった現在でも、挙例するに村上春樹氏の最高傑作『1Q84』(2009年)や、小島秀夫氏がディレクターを務めたゲーム『メタルギアソリッドV ファントムペイン』(2015年)、そしてまさに今年(2020年)のアニメ『攻殻機動隊 SAC_2045』と、名作を名作たらしめるための重大なインプットとされているように感じます。

『1984年』はディストピアもの、つまり理想郷であるユートピアの真逆を描いた小説なのですが、1949年から想像した1984年という近未来のお話で、「テレスクリーン」を始め未実現の情報技術や文化がわんさと登場します。西暦を引き算すると、35年後の世界です。竹谷で考えるなら、1985年生まれの35年後はちょうど2020年となります。この年月を経る間、ファミリーコンピュータは「PlayStation 4」や「Nintendo Switch」となり、黒電話はスマートフォンとなり、消費税は0%から10%まで膨れ、社会保険料は約倍額が天引きされ、ディズニーランドのチケット料金は3,900円から8,200円に上がりました。

さてたとえば、2020年に生まれた赤子たちは、35年後どのような2055年を迎えているのでしょうか。

そういった近未来の一幕をうかがい知れる漫画が、助骨凹介先生の『宙に参る』です。

絶妙な匙加減の「ありそうな未来」

この漫画は、表紙やタイトルの通り宇宙を舞台にした近未来のお話で、訓練を積んだパイロットでなくとも、"ユニバーサル"に星間飛行の可能な世界です。主人公の鵯ソラ(ひよどり・そら)は、とある事情で宇宙を渡っています(作中では「航宙(こうちゅう)」と表されます)。

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『宙に参る』(助骨凹介/リイド社)1巻より引用

宇宙を題材にした漫画ではほかに『彼方のアストラ』がありますが、『宙に参る』には、生死を賭けたサバイバルの要素はありません。前述の『1984年』は甘美な監視社会でしたが、こちらではそれも見受けられません。ゆるめでほのぼのした宇宙の旅路が描かれています。

その物語を彩るのは、まず文化や文明の取捨選択です。

冒頭にて、2020年までの35年間に変遷していった一例を挙げましたが、当然変わらぬものもあります。日本には四季があり、マクドナルドのフライドポテトは中毒的においしく、週刊少年ジャンプは毎週面白いです。

では、航宙が普通となった世の中では、飲食、通信技術、宗教、倫理などなど、人類が築いてきたもののうち、何が変わり何が不変なのでしょうか。

すべてが移ろいを見せた世界なら、それはファンタジーと言われるでしょう。近未来ものにおいては、「どことなく陸続き」と頷ける時間軸のリアリティが肝要ではないかと考えています。

『宙に参る』は、変と不変のバランスが最高で、「こういう面白い未来ありそうだなあ」と妙に興奮してしまう漫画です。

情報を読み解く!パズルのような面白さ

そして、各コマ各コマに考えたくなる情報が散りばめられているのも、『宙に参る』の好きなところです。

鵯ソラは、やはり事情があって主人公なのですが、その主人公っぽさを演出するためか、あちらこちらに面白い仕掛けが施されています。

その具体的な内容を書くほど無粋ではないので、ぜひ手に取っていただければと思いますが、あえて形容するなら「ゆるくてキレのある情報戦」でしょうか。

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『宙に参る』(助骨凹介/リイド社)1巻より引用

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『宙に参る』(助骨凹介/リイド社)1巻より引用

もちろん、気にせず読み進めていただいても十二分に面白い内容なのですが、少し立ち止まり、パズルに臨むかのような気持ちで読んでいただきたいです。「そういうことか」と、なんだか快感を覚える瞬間があるはずです。話の間の空きページも、思わずクスリとしてしまう内容ですし、巻末にあるデザイン集は、細やかな設定と画力に感嘆の息が漏れます。

『宙に参る』は、シンプルに宇宙ものや近未来ものとして愉しめる漫画でありながら、ゆるく思考にふけりたい人に強くオススメできる漫画です。

近い未来、たとえば2055年、ディズニーランドを遊園するのに12,000円くらい払う現実が待っていそうですが、『宙に参る』のごとく、航宙しながら生を謳歌できる世の中になっているかもしれないと思うとワクワクしますね!

最後にひとつだけ。冒頭で村上春樹氏の小説『1Q84』をさも好例として挙げましたが、未読です。ほんとうに申し訳ありません。この「読んだふり」の告白をもって、レビューの結びとさせてください。

読んでくださりありがとうございました。

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WRITTEN by 竹谷 彰人
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